ー では改めて楽曲のことを伺っていきます。奥田民生さんとの「君と僕」のテーマを教えてください。
この曲は再会をテーマにしたいと思い、僕が書いたものを民生くんに送って、民生くんから返ってきたものを完成形にしました。僕たちはミュージシャンとしてライヴを通じてお客さんと色々な出会いがあり、そのライヴが終われば別れがある。それ以外にも震災の中での出会いと別れというのは、今も我々の暮らしの中で大きい存在としてあると思うんです。だから気軽なことから、人生を含んだことまで色々な出会いと別れを歌っていて、それを感じさせるようなものを作りたいと思って、二人で色々と話し合いました。 話し合いと言ってもそこには殆ど言葉はなく、音の手紙のやりとりみたいな形で、僕が作ったデモテープに、民生くんが続きを作って返してくれたという感じです。
ー 民生さんとは昨年12月にShibuya-AXでのライヴ「GACHI・シーズン3」で共演されましたよね。ライヴはいかがでしたか?
僕はやっぱり奥田民生というミュージシャンが大好きなんです。同世代だけど向こうは大スターですから、自分はどういう歌を歌えばいいのか一瞬考えちゃったこともあるんですが、真っすぐやろうかということで、それぞれが真っすぐ歌って、本当に楽しい夜になりました。ライブでは何故かYO-KINGも、ぶらりやってきて最後にぶらり登場するという場面もありましたが(笑)。
ー いいな、観たかった!
でも3人集まって全員が初めてやる曲をプレイするというね(笑)。
ー それはそのメンバーでないと出来ませんね。
適当じゃないと出来ませんね(笑)。
ー(笑)。斉藤和義さんとのコラボ曲「デタラメ」ですが、エロさ(笑)と社会を皮肉った感じが、すごく和義さんっぽいなと思いました。
デタラメの向こうにある本質のようなものを描きたかったんです。どこかでみんなデタラメだと思うし、でもデタラメではいけないと思っている部分もあるし。そういう部分は歌になるんじゃないかなと思って「“デタラメ”っていう曲を作ろうと思うんだけど。」って和義くんに言ったら「いぃっすね!」って、すぐアイデアが出たんです。
ー 確かに真剣なこととデタラメと思えること、この歌詞も含めて、そういうものの表裏一体感を感じます。サウンド面も力が抜けた中に色々な音がトイサウンド的に入っているのが面白いですね。
デタラメ感を色々と表現しました(笑)。でも今迄デタラメの音を探すということをしたことがなかったので、改めて音楽家というのはこういうことなんだよなと思いました。例えば、ドビュッシーの「月の光」や、ベートーベンの「月光」から、月やその光を想起されるように、言葉ではないもので音が沸き立つようなことをやれているなぁと思ったんです。まぁデタラメ感だからベートーベンとは大違いですけど(笑)。でも方向性は一緒かなと。
ー そう思います。
この曲、一度酔っぱらって知り合いの飲み屋でかけたことがあったんですけど、最後お客さんが大合唱になったんです。みんなが「デッタラメ デタラメ〜♪」って歌い出して。凄いな、このパワーと思いましたよ。だって初めて聴いた曲をみんなで大合唱出来るって、なかなか無いですよ。
ー ないです! 確かにこの曲って耳から離れないし、ふとした時に歌ってしまうんですよ(笑)
だから本当にNHKの「みんなの歌」で使ってもらえないかなと…
ー 使えないです!!!!「たまには俺にも入れてくれ?」なんて無理!!!
ですよね…(笑)
ー でもそれをあえて使ったら、NHKさん、スゴイ!…って、ないない(笑)
あはは!
ー 曲の話とはズレますが、この中で一番付き合いが長いのはどなたですか?
えーっと…
ー 和義さん?
最初に”会った”というレベルであれば、タイジくん(佐藤タイジ)かな。タイジくんがまだ池袋のレコード屋さんでアルバイトしていて、レコードを買いに行ったらタイジくんがレジにいて「今度、自分のバンドのライヴをやるから良かったら観に来て下さい。」ってフライヤーをもらったんです。だからかなり昔ですよね(笑)。まぁ民生くんはユニコーンのライヴを何度も観に行ってて楽屋で挨拶とかもしてたし、和義くんもスタジオでばったり会った時に「同じ栃木(出身)なんですよ。」なんて声かけてくれて。でも民生くんと一緒に飲むようになったのは、ソロになってからです。昔はそれこそ本当にガチンコでしたから、ミュージシャン同士で飲むなんて、なかったですね。
ー 敵対心まではなかったにせよ、やはり意識している部分があったということですか?
あったね。でもみんないい加減になってきて今はヘラヘラ飲んでますけど(笑)
ー でもそれは経験や年齢を重ねて出て来た、「良い加減」のゆるさなんでしょうね。
あとフェスもなかったですし。
ー 最近ですよね、フェスブームのようにあちこちでフェスが開催されるようになったのって。
そうそうそう。だからそういう場での交流という感じじゃないしね。
ー ちなみに中村 中さんとは?
「GACHI・シーズン2(2010ー2011)春夏秋冬」で2011年に共演したのが初めてでした。
ー その中村 中さんとの「セナカアワセ」は、このアルバムの中でも特にしっとりとした大人の恋愛という感じですが、歌詞を作るにあたってお互いの恋愛観を話し合ったりしたんですか?
恋愛観というか「“セナカアワセ”というタイトルの曲を作りたいんだけど、 “セナカアワセ” という言葉から何を感じる?」という感じで、インタビューみたいにしながらお互い、この言葉から出るイメージを繋ぎ合わせた感じです。僕が1番を作って、中ちゃんがそれの返答という感じで2番を作りました。お互い別のところを向いているんだけど、背中は合わさっているという共存感は決して悪いことではない。どんな形だったとしても一緒にいられることはいいことなんじゃないかという感じです。
ー 朝を一緒に迎えられたら嬉しいといった内容の歌詞から、もしかしたらこの二人は朝を一緒に迎えられない関係なのかという詮索もしたんですが。
その部分は中ちゃんが書いたので、中ちゃんが持っている “セナカアワセ”に対する目線だと思います。だからそういう風にひとつのテーマが色々な角度から語られていくというのは、今回のアルバムの特徴かもしれません。複雑…というと語弊があるけれど、ある種、幅を持っているというか器をきちんと持っているような部分が面白いです。
ー 歌詞から様々な想像力が湧きますね。
これは僕がすごくこだわった部分なんですが、「結末はいらない」という形にしたかったんです。 僕自身、最近の曲作りのテーマとしてもそれは強くある部分なんですが、「こういうこと」と言い切ってしまう程、野暮で面白くないことはない。それだと何回も歌に向かい合えないし、終わりを知ってしまっているハリウッド映画のように思えちゃうんです。だから何度も聴いて、色々なことが時々の自分を映すような、そんな曲になれたらいいなと思っています。