ー あはは。でもリズムだけでなくコードまでしっかりと変えたアレンジは興味深いです。
自分の楽曲を振り返って、より良いというか違う方向性を見つけられることもあるんじゃないかと思い、“trial and error”(試行錯誤)した結果、今回はとても出来の良いものに仕上がったと思っています。ヒーリングにもなるというのは、余計な情報が入ってこないということ。歌と少しの鍵盤、あとは打ち込み。そういうものだけで構成されているというのは、情念的で掻きむしるような感じがあまり出てこないわけですから、ゆったりと聴いてもらえるんじゃないかなと思っています。だから聴かれ方としては、小さくため息をつく位の感覚で収まってくれればいいかな。
ー そういえば今回、それこそザ・バラードというような楽曲はないですよね。
ないです。
ー それは何故?
うーん、これからの展開に期待して下さい!といったところでしょうか(笑)。
ー なるほど。仕事しますよ!ということですね(笑)。やはりインディーズ時代に発表した“魅惑の唇”は『シェダル』にも収録されていますが今回はブラスが足されているんですか。
はい。アレンジ自体は変わっていませんが、アルバム全体に厚みを持たせるためにもブラスを足しました。
ー この曲は「チャオ御岳スノーリゾート」のTVCMソングでしたが、とてもポピュラリティが高いですね。ジャンクさんご自身がポップスに対して大切にする要素は何ですか?
色々な音楽のジャンルがある中で、自分が一番良いと思ったエッセンスを出来るだけ多くアルバム全体に詰め込むことと、それをポップスとしてきちんとまとめることです。それを聴いた人がそれぞれに景色を浮かべられて想像力をかり立てられるような楽曲、歌詞すべて総合して作り上げられた要塞のような(笑)。攻めるところなし!というようなものが僕はポップスだと思うんです。だからすごく時間がかかるんですけどね。
ー なるほど。“BRAND-NEW DAY”はインディーズ時代に配信限定でリリースしたものをCD化。
僕は配信した作品も最終的には必ずパッケージ化したいので今回収録しました。
ー 同じ理由で、すでに配信リリースされた“聖夜の微笑み”も収録されていますが、そこはジャンクさんのこだわりですか。
はい。やはりパッケージを買っていただきたいのと、音楽はきちんとした媒体があった上で聴いていただきたいと思っているんです。僕が音楽を楽しむにあたって、自分が好きなミュージシャンが新譜を出せば、まずショップに買いにいくじゃないですか。その道すがらも楽曲のことを考えたり、知らない曲が収録されていれば、「どんな曲だろう?」と想像したり。ウキウキワクワクしながらショップに着いて、お目当ての盤を手に入れてパッケージ包装を破って、ジャケットを開いてライナーノーツを読む。そういうことをする時間も「音楽している」と思っているので、僕は。単純に楽しいじゃないですか。「これはあのミュージシャンが弾いていると思っていたら全然違っていた!自分の耳はまだまだだな。」とか(笑)。
ー 私もパッケージへのこだわりがあるタイプなのですごく分かります。
そういう時間って本当に楽しいですよね。だから例えば配信を聴いて、ポンタさん(村上“ポンタ”秀一)の音について「あの音がこうだ」とか言っていても実はそれがポンタさんの演奏ではなく打ち込みだったりとか。そういう自分の耳や感性の答え合わせができるのがパッケージの醍醐味だと思うんです。配信だけだと、そういうのが分かりませんから。
ー しかも配信とパッケージとのもうひとつの大きな違いは、やはり音ですよね。細かい音の聴こえ方が全然違う。
そう!全然違うんです。パソコンの場合、データとして圧縮されているので音も変わってしまうし、僕は圧縮を想定して音を作ったり歌を歌ったりしたことは一度もないので、そこは大きいです。だからレコード世代の人やCD世代の人は勿論パッケージで楽しんでもらえるでしょうけど、配信世代の子達にも是非パッケージの魅力というのに気がついて欲しいです。参加したミュージシャンやスタッフの顔が見えないまでも、誰が参加したかを知ることで案外自分の趣味趣向が分かるんです。例えばそのミュージシャンの他のアルバムや、違うミュージシャンのアルバムを買っても同じプロデューサーや同じギタリストやドラマーが参加しているとか。そうすると「あぁ、自分はこういう音が好きなんだ」という発見が出来て楽しいですし、自分がそこで発見して気に入ったプロデューサーやプレイヤーが参加しているアルバムを買えば間違いないんですよ!
ー それは個人的にも声を…いや、文字を大にして書きたいです!
あはは!
ー この曲は音域の幅が広いために当時はかなり歌うのに苦労されたとか。
はい。でも今は大丈夫です(笑)。特に下のキーが出るようになってきたんです。高音ばかりではなく男性的な魅力というか、低音のズンッとした音が出るようになりました。出るというよりは道具として「使える音」になったという感じですが。
ー ちなみにジャンクさんは現在、オクターブで言うとどの位、出るんですか?
それね、よく聴かれるんですけど計ったことないんですよ。皆さんきちんと把握しているじゃないですか。キー決めの時に必要だし。でも考えたこともないんです(笑)。歌いたいように歌う。たとえキーが合っていても駄目な曲は駄目なんですよ。
ー 駄目とは?
歌っていて気持ちよくないということです。そういう曲はいくらでもあるんですよ。「何かが違う」と思う曲。全然良いパフォーマンスにならないんです、そういうのは。同じメロディでも気持ちが入れられる音階、キーの高さというのがあるんです。逆に、こういうキーで歌うと最高に気持ちいいし、曲としても盛り上がるだろうという曲で、そのキーが出ない時は本当に残念です!
ー それは残念な上に悔しいですね。ジャンクさんは、力強い歌声が持ち味だと思うのですが、例えばウィスパーのような、現在の歌い方とはまったく逆の歌い方をしようと思ったことはありますか?
いや、ないです。多分全編に渡ってのウィスパーとかは絶対にやらないですね。それが理由で昔のバンドを解散した位ですから。
ー「ハヤオキ×」ですか?
そう。出来ないとかではなく、やりたくない。ウィスパーまでいかなかったとしても、力を抜いた歌唱法とか色々あるし、それを批判しているわけでは全くなく、ただ自分がやることではないと思っているんです。
ー なるほど。例えばそれを音楽での表現の幅という風に捉えることはない?
そういう歌い方が合う楽曲があればやりますけど、それをあえて狙って作ることはないと思います。折角こういう声量で歌えるのだから、やはりそこは生かしたいです。だから「絶対ウィスパーやりたくない!そういう歌い方はしたくない!!(かなり小声でささやくように)」
ー 思いっきりウィスパーだし!!!
<一同爆笑>