11月6日にフルアルバム『黄金の在処』をリリースする長澤知之。孤高の才能が多彩なミュージシャンの参加や既存のバンドとコラボレーションすることで生まれる“ケミストリー”を今作には感じた。特に歌詞に関しては聴く人によって自由な捉え方をして欲しいと語る長澤。では様々なミュージシャンとのセッションやコラボという体験はどういう楽曲を生んだのか、各曲のプロダクションを軸に話を訊いてみた。
ー どのインタビューでもピックアップされると思うけど、今作のフルアルバム『黄金の在処』は本当に多くのミュージシャンが参加していますね。
そうなんです。でも実は最初からこれだけの方々にお願いしようと思っていたわけではなくて、なりゆきというか自然とこういう形になったんです。『SEVEN』の時に、“あんまり素敵じゃない世界”でCOILの佐藤洋介さんにギターソロを弾いてもらうなど起点になる部分はいくつかありましたが。『誰より愛を込めて』でNabowaとコラボしたことも含めてね。
ー その、配信シングルとして先行リリースした『誰より愛を込めて』は、Nabowaさんとコラボしたことにより、今迄の長澤くんの音楽にはない音が入っているのが新鮮でしたし、何より開放的なサウンドが心地よかった!
良かった。
ー それこそCOILの佐藤さんや、TRICERATOPSの吉田佳史さんにレコーディングでの参加をお願いするという形ではなく、バンドそのものとコラボという経験はどうでした?
確かにバンドに自分が飛び込むという経験は初めてでしたからね。でもすごく楽しかった! それが自分としては本当に良かったです。だから今作に収録の“VACANCES”でも再度Nabowaと一緒にやりました。それにプロモーションもいくつか一緒に回ったりしたんですが、僕が喋らなくてもNabowaのメンバーが喋ってくれるので(笑)、「あぁ、バンドってこういう感じなんだな。」って疑似体験が出来たのも楽しかった。
ー 疑似体験ね(笑)。Nabowaさんは、長澤くんのレコーディングのやり方に驚いていたという話を聞いたんだけど。
そうそう。僕はどちらかというとスタジオに入ってからガンガンガンって決めていく方なんです。それこそ『SEVEN』のジャケットの絵を描いた時もそうなんだけど、デッサンとは呼べないような幼稚なデッサンしか描かない。でも全然それでいい。いざ描くとなったら頭の中の絵を描くので、音楽もそれと一緒。入念にリハをこなすというのがあまり僕の中にはなくて、その場で「これを重ねてみたいから重ねよう、駄目ならこれ。もしくはこっち」みたいな感じ。だからそのやり方に合わせてもらう形になったので、Nabowaのみんなには無理をさせてしまったところもあると思うけど、すごく力を出して下さったので、感謝しています。
ー『SEVEN』を聴いた頃にバイオグラフィー的要素をすごく感じたんだけど、今回の『黄金の在処』も、長澤くん自体が音楽を楽しんでいる開放感を感じました。
まさにテーマが“楽しむこと”でした。漠然としていますがそれまでの音楽というか、自分がやってきたものというのは、色々な強迫観念も入っていた気がするんです。だからそういうものを抑えて楽しむような感覚を出したいなと。実際レコーディングでどれだけ楽しめたかと自分に問うと、疑問は残るけれどね(笑)。でも音楽としてそれが少しでも残っていたらいいなと思って作っていました。自分の歩いてきた軌跡といっては大げさかもしれないけれど、『SEVEN』があって『黄金の在処』があってという流れのようなものがあればいいなと思います。
ー 今回のジャケットはアートっぽいね。
これは僕の手帳に書いてあったものや落書き、絵をデザイナーさんに送ったら写真と組み合わせてくれたんです。
ー ちょうど身体のところに『JUNKLIFE』や『EXISTAR』が。
そうそう(笑)。
ー 改めて楽曲の話ですが、“GOODBYE,HELLO”は今年6月に開催された<待ち人のフェイバリット〜on the street corner〜>の時にラストで歌っていましたね。
はい。
ー 軽快だけど単なるポップではない。金子巧さん(cro-magnon)のオルガンがすごくフックになっていますね。
金子さんのオルガンで、より広がりが出ました。<待ち人のフェイバリット〜on the street corner〜>の時は本当に歌詞が出来たばかりだったので、このアレンジも曲制作をする中で徐々に固まっていったという感じなんです。勿論自分の中に、大まかなイメージはあったけど、やはりスタジオに入って金子さんをはじめミュージシャンの方々に音を鳴らしてもらいながら決めていきました。金子さんは気さくで対応力が凄いんです。特に僕があまり足を踏み入れないジャンルの人なので、良いスパイスになるような感じでした。
ー “フラッシュバック瞬き”は、個人的にすごく好きです!
嬉しい! なによりです(笑)。
ー 冒頭のファルセットとその後のラップが特に印象的でした。
このラップ部分は曲を作っている時すでに、言葉をバンバンバンって投げかける感じにしようと決めていたんです。
ー 歌詞も同音異義語があったりするから、耳で聴くのと歌詞カードを読むのとではイメージが異なる部分もあるのが面白かったです。例えば「憑かれちゃった」という部分は耳で聴くだけだと「疲れちゃった」なのかとか。
抽象性を大切にしようと思いました。僕の中に答えはあるかもしれないけれど、それは聴いた人それぞれが感じるものだから。
ー この曲にはボカロPれるりりさんが参加してますね。知り合ったきっかけは、大柴広己くんが呑みの席で連れて来たこととか。
そうそう(笑)。僕は呑みの席に全く知らない人が突然やってくることがあまり得意ではないけど、オオシバンは関係ないみたいで、れるりりくんを突然呼び出して(笑)。