ー レコーディング中、印象深いエピソードはありましたか?
山さんは天才肌だから、多分自分のレコーディングもガーッと弾いて「はい、こんな感じで。」というやり方だと思うんです。でも僕は自分の頭の中で鳴っている音があったらそれを具現化するまで結構しつこくやるタイプなんです。だから山さんに「さかい、細かいなぁ!」って言われました(笑)。
ー あはは!
「そうなんですよ、僕細かくて…。」って(笑)。
ー でも実際私も山崎まさよしさんのライヴは結構見させていただいているんですが、あの3人のプレイには引き込まれます。
僕、多分オーガスタの中で一番、山さんのライヴを観に行っているんじゃないかな。やはり音楽的ですよね。すごく目新しいことをやっているわけではないけどずっと観ていたくなる。
ー 音楽的という意味では、さかいさんと共通性があるのでは?
いや、でも僕の方が飽き性(笑)。だからバンドも飽きちゃう。とはいえそこまでバンド経験はないんですけど。
ー 多分バンドでプレイした時、メンバーの人間性がどうのではなく、他にも色々な音でプレイしたくなっちゃうからじゃないですか?
そうかもしれません。何でも出来る人を呼んだら最高のバンドが出来るかというと、そうではなかったりするんですよ。インディーズでやっていた頃のバンドはすごく良かったんだけど音の面でコアだったので、今やっているJ-POPサウンドとは違ったんです。でもその時から僕はJ-POPサウンド的な8ビートは好きでしたが、当時の仲間はHIPHOPやSOULだったので、8ビートを良い具合に叩ける人がいなくて。
ー リズム表現が違うからですね。
HIPHOPやSOULの曲をやるとメチャクチャカッコいいんだけど、こっち(8ビート)の曲をやるとちょっとスネアが重かったり。でもみんなそのグルーヴで作っているから仕方ないんです。別にみんなは悪くない。だってカメレオンみたくグルーヴを変えられるドラマーがカッコいいわけではないから。それは器用なだけで、才能があることとは別の話。だからその当時は尊重しながらやっていました。そういう意味では今すごく探しています。
ー さかいさんのグルーヴをバンドで表現したライヴは観てみたいです。
色々実験したりトリオでやったり、どうしてもバンドの方が良いというイベントもあるじゃないですか。そういうのはバンドでやりますし、勿論、かたくなに弾き語りでやることも出来るんですが、バンドって楽しいじゃないですか。色々な人との出会いもあるし。
ー 確かに。楽曲の話に戻りますが、カップリングの「ONE WOMAN」は ルイアーム・ストロングの「What a wonderful world」的なサウンドですごく暖かくて心地よいテイストですね。
確かに「What a wonderful world」が一瞬入っています(笑)。聴いていて色気とポカポカする感じの両方が欲しかったんです。サッチモ(ルイアーム・ストロング)の場合は、色気というよりひたすら笑顔でポカポカする感じだけど、トランペットは凄いですよね。
ー はい、確かに。
セクシーではないけれど、でも少し泣いちゃう感じ。「お父さんありがとう!」みたいな(笑)。
ー 人間臭いというか。
そう、人情的というか。僕は両方とも曲とも欲しいんです。
ー 歌詞については森さんのテリトリーになるのかもしれませんが、「僕たちの不確かな前途」も「ONE WOMEN」も“明日へ向かって行こう”という共通のキーワードがあるように思ったのですが。
実はそれは、たまたまなんです。
ー そうだったんですか。
でも、たまたまであって、たまたまではない。こういうのは巡り合わせですから。
ー 衝動にも似た前向きさと、現実の不安に負けそうになる気持ちが交差しながら進んでいく歌詞が、森さんならではのロマンチックさと人間らしさ、リアルさに溢れていますね。
やはり森さんは凄い人です。
ー そして小泉今日子さんに提供した「100%」を今回はセルフカヴァー。
はい。この曲では甘美な部分と、もっと大きなヒューマン・ビーイングな人類愛と恋愛を表現したかったんです。スイートだけで終わりたかったら「おばあちゃん」というワードは出てこないし、母親への感謝の念だけなら「キス」や「ハグ」は出てこない。それが混在していることが僕は好きなんです。
ー 他のアーティストさんに楽曲提供する時は、その人のことを考えながら作るものなんですか?
この曲に関してだけ言うと、実は依頼されて書いた曲ではなくて元々ある曲を小泉さんが気に入ってカヴァーしてくれたんです。
ー そうだったんですか。
ええ。でも僕自身好きな曲だったので今回収録することにしました。ただ、僕がいきなり初披露するよりは、誰かがカヴァーしてくれて歌った方が歌詞的にも自然な曲だと思っていたので小泉さんが歌ってくれたのは嬉しいです。小泉さんは与えられた楽曲を自分のものにする才能やセンスが、とてもある人だと思いました。
ー 小泉さんのヴァージョンも好きでした。今回はピアノとストリングスで構成されていますが、こういうアレンジにした理由は?
僕が歌う場合は、アコースティックな構成の方が歌詞とメロディをより聴いてくれるかなと思ったんです。でもバンドで聴きたい人と、アコースティックで聴きたい人って別れるんですよね。
ー 確かに。
結構アコースティックの方が好きという人の方が少ないと思いませんか?
ー どうでしょう。
バンドで聴き慣れている人はアコースティックだと、少し「通」な感じというかサブカル感を感じたりもすると思うんです。でも、長い目で観たらこのアレンジの方がいいかなと思いました。そのうちバンドでやることもあるかもしれませんが、今回はこのアコースティックヴァージョンで楽しんでもらえたら嬉しいです。
ー Radiohead の「CREEP」をカバー収録していますが、さかいさんは、Radioheadが好きだったんですね。
好きです。作品は殆ど持っていますよ。
ー ちょっと意外でした。
僕ね、狭く深くなんです(笑)。だからRadioheadは聴くけれど、Oasisはあんまり聴かないです。「Radiohead好きならOasisも好きでしょ?」って言われるんだけど、あれ何でなんだろう。全然違うと思うんだけど。別にOasisが嫌いという意味ではないけれど、多分感度が違うんでしょうね。ブリティッシュの括りで一緒にしているのかもしれないけど、全然違う音に聴こえるんです。