ー こちらがきちんと発信しないと。
そうそう!発信側はスタッフの言うことも聞かない。会社の言うことも聞かない。でもそれでも何とかかいくぐって、こじつけでもいいからそうやって作品を出しているうちはセールスも上手くいくんです。だから周りも納得する。勿論全部が全部そうではないけれど、今は一般的にみんながいい子ちゃんになってしまっている気がするんです。
ー それは色々な意味で分かります。
ただみんなで作り出しているから仕方ない部分もあるんですけどね。だからそれはみんなの責任。ライターの方もそうだし、僕ら自身もそうだし、スタッフさんもそう。みんながその流れの中で罪の意識もない。まぁ言うだけなら言えるじゃないですか。
ー ええ。
でも段々、言っていることと、やっていることが変わってきている中で、自分のことを貫ける日本人は殆どいなくなっているんじゃないかな。
ー 貫こうとすると潰される世の中になっているのは確かかもしれないです。例えば私のようなライターであれば当然原稿確認が入る。それは小さいことだけど、もっと大きなビジネスになればなるほど、貫くことが難しくなる。
そうそう。一人一人と話すとみんな何かしらの毒や(笑)、想いを持っているんだけど、それはみんなで作り出すことだから仕方ない。本当は仕方ないと言っては駄目なんでしょうけど。だからこの『さかいゆうといっしょ』では、自分が出来る範囲の中でせめて自分の作品くらいは自由に作りたいと思ったんです。僕はやっていることと言っていることのズレが生じると、自分自身のモチベーションが下がってくる気がするので、あくまでも等身大で居ます。自分の中にある毒やメッセージはきちんと曲の中に取り入れるし。
ー そういう想いが音源やライヴとしてみんなに届いた時、そこには真実しかないから気持ちが動くんだと思う。そういうことがもっと飛び火していけばいいよね。
そうそう。
ー では楽曲の話に戻ります。竹内朋康さんとのコラボ「SHIBUYA NIGHT featuring TOMOYASU TAKEUCHI」ですが、今も人気が高い曲ですよね。
ライヴでもよくやりますし、好きな人は多いんじゃないかな。
ー 昨年6月に渋谷公会堂で開催された【TOUR2014 "Coming Up Roses" SPECIAL】でゲスト出演された竹内さんとこの曲をプレイしたステージは最高でした!
アツかったですね!彼は自分のサウンドを持っていますから。自分のサウンドを持っている人は、それ以外のことが何も出来なかったとしても聴くに値する。それを目当てに観に行きますよね。
ー 確かに。そういえば先程のお話では竹内さんがKREVAさんを紹介してくれたとか。
そうです。
ー そのKREVAさんとのコラボ「生まれてきてありがとう feat. さかいゆう」ですが、あるインタビューでKREVAさんが、ゆうくんと考え方がすごく近いから制作はスムーズだった上に、楽しかったと書いてあるのを読んだことがありました。
確かに考え方は似ているかも。確信を持って制作を進めますし「こういうことをやりたい」という意識を持ってスタジオに入るんです。漠然としていない。サウンドにしても言葉にしても、伝えたい想いがあるので早いです。だから、もしお互いの意見が違っても良いんです。それより困るのは意見が無いこと(笑)。
ー どちらでも良いとか?
そうそう(笑)。
ー 今作を聴いた時も感じたのですが、日本でのHIP HOPミュージックの捉え方って幅広いですよね。勿論イースト・コースト・サウンドをコアに表現している人たちもいるし、KREVAさんのように自然とJ-POPと融合しながら愛や友情、生き方をテーマにする方や、今回「記念日 feat. さかいゆう」が収録されているマボロシさんのように、すごく身近なリリックでアプローチする人もいる。
それはKREVAとMummy-Dの違いですよね。Dさんは、理想像ではなく自分の中にあることを書くから。それに対してクレさんはどちらかというと、自分を鼓舞する言葉をわざと選びますね。
ー なるほど。ゆうくんは?
うーん、僕は自分の中でHIP HOPとPOPSの違いがあまりないからなぁ。
ー というと?
音楽をあまりジャンルで捉えていないんです。だから自分で聴く音楽プレイヤーの中身もジャンルがバラバラだし。
ー そうなんだ。私も含めてだけど、日本はカテゴライズするのが好きなのかな。
いや、日本だけじゃないですよ。アメリカ人とかの方がもっとジャンル分けするから。日本人の方がまだシャッフルで聴けている気がします。例えばキューバ人はキューバ音楽しか聴かないし、HIPHOPが好きなアメリカ人は殆どHIOHOPしか聴かない。
ー あえてジャンルの話になりますが、そう考えると日本人のHIP HOPへのアプローチにかなり違いがあるのにも納得出来るかもしれない。
日本人はかなり音楽に対して雑食だから。
ー その雑食ということに繋がるかは分からないけれど、KOHEI JAPANさんとの「シロクジ feat.さかいゆう」は、すごく面白かったです。ワルツとHIP HOPの組み合わせって、どうなのかと思っていたけど。
面白いでしょ!ワルツとHIP HOPの組み合わせに関しては僕、作る前から結構形が見えていたんです。KOHEIさんって、声やラップは派手ではないけれどじんわり入ってくる。それはKOHEIさんにも言ったの。「例えばDさんは4小節で“コイツ、ヤバイ!”って思われるラッパーだけど、アコースティックな音楽と合うのは、絶対KOHEIさんだよ。」って。僕はMummy-DもKOHEI JAPANも同じくらい素晴らしい人だと思っている。それこそカホンやパーカッションが合うのはKOHEIさん。
ー あぁ!分かる気がする。
だから普通のHIP HOPではありえないけど、ビートもアコースティックなブラシっぽい音で作ったんです。絶対合うと思ったから。でも逆にあの感じはDさんでは出来ない。もっと格好良くやっちゃう。
ー そうなんだ。
そう。KOHEIさんは独特の良さがある。もっとクレさんみたくメロディを作ればいいのにと思っちゃう。でもKOHEIさんの周りにはMummy-Dをはじめ、KREVAやRHYMESTER、RIP SLYMEなど本当にスキルの高いラッパーが多かったし、そういう中で揉まれてきた。でもみんなにはない「歌」があるんです、KOHEIさんには。泣きたくなるような何とも言えない哀愁ある声だし。「その部分を何とか活かしましょう!」って言って、一緒にコラボしました。