ー 暗闇の時に願う静かな生活って、自分が今ある一番「凛」とした時間というか。
勿論、毎日落ち込んでばかりいるわけではなくて、すごくハイテンションの日もあるんだけど、闇の中にいるか光の中にいるかというのは別としても、単純に静かなる生活というものを求めているというのは、芯の部分ではずっとあるんです。例えば小さい頃にクリスマスイブに教会に行って祈る絶対的平和に近いものに近いかな。
ー 「幸せへの片思い」は、人間の一番奥深い「自分」がある気がします。”病院”という細かいディテールは別としても、長澤くんの本音がある気がするけど?
「銀河鉄道の夜」をアニメにしたものがあって、 宮沢賢治さんの原作は読んだことないんですが、僕はそのストーリーが大好きなんです。カムパネルラは、本当の幸せの為なら僕は何だって出来るけど、本当の幸せって何だろうとずっと考えていて、その話をジョバンニは右から左に聞き流しているんです。結局カムパネルラは川で溺れそうになった友達を助けて、その代わりに自分が死んでしまうんだけど、それが彼の言う本当の幸せだったのかもしれないという到着点なんですが、例えば人の為に死ぬ、誰かの為に生きるということ。自分以外に尽くすものがあれば素敵な話なのかもしれないんだけど、単純に僕は幸せになりたいということを「幸せへの片思い」では歌いたかったんです。
ー もしかしたら、幸せに対してはずっと片思いなのかもしれないですね。
欲望や生命力、そういうものですね。
ー サウンド面の話をすると、益子樹さん(ROVO、DUB SQUAD)の音の絡み方も面白いです。
新たなチームのディレクターがROVOが大好きなんです。
<ディレクター:以前仕事を一緒にしたこともあって、長澤と絡ませたら絶対面白いと思ったんです。>
ー すごくサウンドが面白かったです!!
紹介していただいた時、はじめの印象はちょっとコワイ人かなって思ったんです(笑)。でも気さくで話しやすい人で、音楽のことに対してもすごく柔軟に消化して返してくれるんです。だから良い雰囲気のお陰で、良いセッションが生まれたので良かったです!
ー 益子さんの空間的サウンドが、生々しい歌詞やギターの音とのバランス感が面白いですよね。
ある種60年代や70年代っぽいサイケデリックさというか。
<ディレクター:使っている機材も実は最新鋭のものではなくて、80年代に構成を極めたピコピコした機材の音なんです。>
優しくてクリアな音。
ー「決別」では、かなり未練というものとは無縁に、完全にその人のことが自分の中からいなくなったことを”君をもう誇らない” という歌詞で語っていますね。
こういう風に完全に憎み合って終わるというのはなかなか無いかもしれないけれど、そういうことだってあるといえばある。こういう曲もあっていいと僕は思うんですよ。何かに気遣って何かを言えなくなってしまうと歌詞ってつまらなくなるから。特に今は、言論の自由がある国なのに、言ってはいけないワードが増えていってそれはつまらないと思うんです。そうするとどんどん歌詞の可能性も狭まってくるから、言いたいことをそのまま歌詞に出来たらいいなと思います。
ー ミュージシャンとライターという立場の違いはあるけど、同じ言葉を紡ぐ人間としてそれはすごく分かります。例えば60年代、70年代なら音楽評論だってもっと辛口なものが厳然と存在出来たしね。
そうそう、普通にあった!そういうのがないとこっち側の人間(ミュージシャン)も育たないし、どの曲もいいです!ってないでしょ(笑)。だって絶対好き好きがあるし、この「決別」を聴いて、「この曲、私ムリ!」っていう人だって沢山いるかもしれないけれど、それでいいと思うんです。今はみんながあまりにもかしこまってしまうからそういうのは疲れてしまう。
ー サウンド面では、途中でガラッと違うサウンドのエッセンスが入るのが面白いですね。
展開的には、AとAのパートの間にBパートを入れているんですが、この部分は自分では「ヤケクソパート」って呼んでいるんです(笑)。この曲はいくつかプリプロがあって、そのヤケクソパートが、現在ここに入っている元になるものと、他にもいくつかあってそれをくっつけてこういう風になりました。そのヤケクソ具合が一番奇麗なもの(笑)を使いました。