ー それはバラードも同じですか?
大橋:バラードは、歌詞に入り込んで感情を爆発させるだけで、その曲になると思います。勿論メロディラインは決まっていますが、僕も歌うたびに違うんです。その日の心境や環境、コンディションでもそうですし、もっと言うと声がかれていると聴こえ方が変わることもある。だから自分の中にある、その時の感情をバーッと放出させることが出来れば、バラードは意外と歌えると思います。
ー そして今回12月3日にシングル『星のうつわ』と、アルバム『スキマスイッチ』が同時リリースですが、『星のうつわ』は12月6日(土)から全国公開のアニメ映画『THE LAST -NARUTO THE MOVIE-』(以下: NARUTO)の主題歌。この曲は書き下ろしですか?
常田:そうです。頂いたテーマとしては、恋愛ソングでないことと壮大なイメージ。でもこの2つ以外は制約がなかったので、まず最初に話し合ったのはバラードにするかアップテンポにするかでした。壮大=バラードじゃなくてもあり得ると思うので、色々考えたんですが、今回は「ラスト」というワードもあるので、やはりスローな方が良いのかなと四苦八苦しながら卓弥のたたき台のデモを元に完成させました。でも途中で卓弥が何度も「もう一回、もう一回」って作り直しをして。それでも「まだ出来ないから」と言って、持ってきては作り直しの繰り返しでした。それは僕がたたき台を作った歌詞に関しても同様で、頭の中で出来上がっているテーマがなかなか落とし込めず、形にするまで時間がかかりました。
ー 常田さんが頭の中で描いているテーマは、どういうものだったんですか?
常田:大きなテーマとしては恋愛ではない、でも人間に起こっていることについて書きたかった。つまり人間愛みたいなものです。でもそれは何だろう?と考えると、「NARUTO」でも触れている「継承」だったんです。僕らも昨年10周年を迎えさせてもらい、その部分で感じたことは、そろそろ先輩たちから受け取るだけでは駄目なんじゃないかなということでした。10年も経つと、自分たちにも後輩が出来てくるので、先輩たちから教えていただいた色々なことを、そのまま自分たちの中だけで溜めておくのではなく、伝えていかなくてはいけないんじゃないかなと。でも実は「NARUTO」のお話をいただく前から、僕らの間で少しそういう話をしていたんです。「NARUTO」でも、忍術を受け継いだり血統の話が出てきたりするので、そういうことにもリンクするし、技術の遺伝というんでしょうか、その部分も歌詞に落としこめそうだと思ったんです。技術の遺伝だけでなく、生命の遺伝においても何が遺伝して何が遺伝しないのだろうって、すごく考えました。
ー なるほど。では大橋さんが納得いかなかったのは、どういう部分だったのでしょうか。
大橋:メロディを作った時に、「これもまぁ悪くはないけど、何かもう少し出そうな気がする」と思う時があって。曲として成立しているんですが、そこにスポッとハマる曲が出そうだなと、何かむず痒いみたいな時があるんです。それが続いていたので、「いや、もう一回書いてくる。一回書いてくる。」って書き直しを重ねて、今の形に落ち着きました。
常田:テーマとしての壮大さはすごく大切にしましたし、サウンド感も壮大になるようストリングスもふんだんに使うなど意識しました。ただ書きたいテーマとしては、実は大きなことではなく、身近で手に届くレベルのものが良いと思っていたんです。手に届くレベルのことも良く考えたら壮大になるなって、いつも思っていて。むしろ小さなことを観ながら大きなことを考えたり、大きなことを観ながら小さなことを考えたり。そういうものになれば良いと思いました。
ー 映画で吹き替えにも挑戦したようですね。
大橋:少しだけですが難しかったです。“ボクノート”をアニメ映画『ドラえもんのび太の恐竜2006』の主題歌に起用していただいた時にも吹き替えは挑戦しましたが、どちらにしてもその時からの成長は全くなかったです!
常田:9年近く前だからね(笑)。
大橋:それこそいつも僕らが使っているようなレコーディングスタジオで、同じようなマイクを立てて声を出す。そこまでは一緒なんですが、やっぱり違うんですよね。喋ることがこんなに難しいのかと思いました。演出の方から色々な指示を受けながらやるんですが、自分では出来たつもりでいても、映画の中で僕らの声が出てくると全然温度差があったりして。
常田:難しいですねぇ…。後悔の連続です。
大橋:普通に僕らの声だしね。
常田:そうそう(笑)。勿論OKはいただきましたが、実際映画を観るとハァ〜(深いため息)ってなりますよね。「もうちょっと、こういう風に出来たんじゃないか。」って。でもきっとそう思っても出来ないとは思いますが(苦笑)。やっぱり声優さんはすごいですね。映画の舞台挨拶で声優さんたちとご一緒させていただいたんですが、一瞬でそのキャラクターになるんですよ!
大橋:あれはすごいね。
常田:卓弥は一瞬で“大橋卓弥”になるもんね。
大橋:うん。…って、それ僕のまんまだけどね!
<一同爆笑>
大橋:その舞台挨拶で声優さんは、ちょっとした合間にキャラクターの声を混ぜたりしながらお客さんを沸かすんです。声の成分そのものはそれほど違わないのに、 どこかにスイッチがあるんでしょうね。 僕も歌っている時と話をしている時では違うけど。でも僕の場合は歌だしな。
常田:じゃあ挨拶の時に「(歌)見上げたものは〜♪…(喋り)どうも、大橋卓弥です。」って毎回入れて行くってのはどう?
ー アハハハ!
大橋:そうだね(苦笑)。でも声優さんはそういうことをやっているわけだからね。
ー そういう部分もふまえて、映画が楽しみですね。
大橋: まぁ役と言えるほどではありませんが、僕らの担当した役柄をあえてあまり言っていないので、どこで僕らが出て来るかも楽しみにしていただきたいです。すぐ分かると思います。明らかに違う二人が出てきますから。
常田:アハハハハ!
ー 楽曲の話に戻りますが、『星のうつわ』のc/w、“快楽のソファー(仮)2014 ver.”は、資料を観るとデモが2002年となっていますが、その当時はこの楽曲を音源化したんですか?
大橋:いえ、していないです。ライヴでもやっていなよね。
常田:やっていなかったと思うよ。でも歌詞も変わっていないし、その時に作ったデモに少し手を加えた位なんです。
ー 2002年といえば、お二人が【Augusta Camp】のサブステージに出演された年だったんですよね。
大橋:そうです。初めて【Augusta Camp】に出演した年です。
ー その時のことって覚えていますか?
大橋:よく覚えています!僕は忘れられない日になりました…(笑)。
ー というと?
大橋:それまではそれこそ、50人とか多くとも100人位のお客さんを前にライヴハウスでライヴしてきましたが、その日はいきなり3万人だったんです。そこでデビュー曲の“view”を歌ったんですが、本当は1番、2番、間奏、サビなんです。でも本番では、1番の後に2番をまるまるすっ飛ばしてサビにいっちゃったんです。
ー やっちゃいましたね。
大橋:そうなんです!間奏ではハーモニカを吹くんですが、1番が終わってハーモニカを吹き出しちゃったものだから、シンタくんとサポートで入ってくれたバンドメンバーの演奏がそこで一瞬グニャっとなって。でも僕は気づいていないので、ステージが終わってから「あんなに練習したのに、何であの部分を失敗したんだよ!」って、僕がみんなに言ったんです(笑)。そしたらシンタくんが「卓弥、二番の歌詞を今歌ってみて。」と言われて、そこで初めて二番を歌っていないことに気が付いたんです。「あぁ、僕が飛ばしてたんだ!」って。
常田:Aメロを弾いていたら、卓弥が歌わなかったので「これは!」と思い、後ろにいるドラムとベースの人に“どうする?”って目配せをして。でも完全に“どうするもこうするもないよ”という顔をしていたので、これは間奏に行った方がいいなと(笑)。
大橋:苦笑
常田:幸い卓弥がアドリブではなく決まったフレーズを吹いてくれたので、次の展開に変更しやすかったですが、まぁビックリしました!でもちょっと嬉しかったことがあって。
ー どんなことですか?
常田:ひとつは、大舞台なので当然僕も緊張していたんですが、緊張しているのは僕だけじゃないということ。もうひとつはサポートメンバーと音で会話をしたということ。おそらく初めての経験だったんです。まだデビュー前だったので、最初から決めていたことをやるのではなく、その場で合わせるということがちょっとプロっぽいなと思って(笑)。だからその日のことは今でもすごく覚えています。しかもその時サポートに入ってくれた二人は、その後もしばらくサポートをしてくれましたし、未だに全員がちゃんと音楽で飯が食える状態というのはやはり嬉しいですね。同世代の二人と大きな舞台に立てたことも想い出です。
ー すごく良い想い出ですね。今年【Augusta Camp2014】では、秦 基博さんと一緒に“ユリーカ”を歌われたじゃないですか。
大橋:はい。