ー あの時の大橋さんがものすごく印象的で。
大橋:印象的?
ー それこそ、先程常田さんが言われていた後輩への継承ではありませんが、我が子を谷底に突き落とす…
常田:獅子の子落とし!(笑)
ー そう!あれではないですが、闘争心剥き出しの表情と圧倒的な歌声を容赦なく秦さんへぶつけるというか。
常田:分かります、すっごく分かります!でも本人はそんなつもりないんだよね(笑)。
大橋:そう。僕はそんなつもりはないんですが、やはり歌となると勝負ということが頭をよぎるみたいで(笑)。特に秦はそうですね。別に秦を鍛えようなんておこがましいことは思っていないですが、リハーサルでは普通だけど本番のステージに上がると、何か闘争心を剥き出しにしてしまうというか。
常田:秦は特にね。いじってこないから卓弥としては、より闘志が上がるんじゃないかな。横で観ていてすごく思います。
ー でも本当のミュージシャンだと感じました!後輩たちがそういう背中を観ているんだろうなって。
大橋:そうでしたか(照笑)。
ー スキマスイッチとしての活動からは少し離れますが、常田さんは1月21日(水)発売のフラワーカンパニーズのオリジナルアルバムで、共同プロデュース曲を手がけたそうですね。前回の『ハッピーエンド』収録の“エンドロール”に続き2作目ですが、いかがでしたか?
常田:相変わらずマイペースに制作を進める人たちで(笑)。でもそれがとても楽しかったです。“エンドロール”を経て、信頼されているとすごく感じられたので、電話やFAXで何度もやりとりをしました。圭介さん(Vo.鈴木圭介)はネット環境を使わないので、全部FAXなんです。歌詞も手書きなので、ちょっと文字が擦れて読めない部分があったりして、やっぱり電話しちゃうんですが(笑)。曲自体もお互いにアイデアを出し合いながら作りました。 僕も卓弥もフラカンさんに憧れているんですが、 あの4人でしかない“俺たちはこれしか出来ないんだよ”という雰囲気が、いつ会っても感じるんです。それが羨ましくもあり、僕らも “僕らの音は僕らにしか出せないんだ”という状態でありたい気持ちが混在します。「結局これしか出来ないんだよね。」という自信と、良い意味での諦め。それが逆にカッコ良くて、傍に居させていただくだけでも本当に光栄な環境でした。
ー そういう経験は、スキマスイッチとしての活動にも活かされてきますよね。
常田:それは間違いないです!バンドが持っていることは、絶対に僕らでは味わえないことなので、そこで経験したことや感じたことは卓弥にも伝えます。それは直接的なノウハウで役立ったり、向こうで初めてお願いしたエンジニアさんをスキマスイッチでもお願いしようかと思ってみたり。
ー そして、アルバム『スキマスイッチ』は、曲のバリエーションもそうですが、加えながらも削ぎ落とすようなサウンドクリエイト力に脱帽でした。アルバムとして何かテーマはありましたか?
大橋:今回は特になかったです。強いて言うなら、オリジナルアルバムにまだ収録されていないシングル、“ラストシーン”、“ユリーカ”、“スカーレット”、“Hello Especially”をどうするかでした。でもそれは既にベストアルバムに収録したので、手に取る人にはあまり優しくないのかなと。それで二人で相談して全曲新曲になりました。そうやってアルバム完成に向けていく中で「星のうつわ」を書き下ろしたり、今やりたいことを二人で順番にやっていきました。でもそれも、あえてそうしようと決めたわけではなくて、実作業がそうなっただけの話なんです。
ー 11年目にしてセルフタイトルを付けられたのには、どんな想いがあったのでしょうか。
大橋:それも、10周年を経て「スキマスイッチはここから第二章のスタートだ。だからタイトルも『スキマスイッチ』にしよう!」みたいな深い想いというよりは、もう少しカジュアルな感じでした。本当に好きなことをにここに注ぎ込んで作り、1曲単位で「これ面白そうだね。」とか「ここはこうした方がいい感じになるよ。」というやりとりをずっと繰り返して、10曲溜まったからその時点でアルバムが完成。作品としてもそういうスタンスでした。スキマスイッチが今やりたいことを詰め込んだのなら、この作品がスキマスイッチそのものではないだろうか。それならタイトルもシンプルに『スキマスイッチ』がいいんじゃないかと。
ー なるほど。でも、“ゲノム”のようなエモい楽曲が1曲目というのは、新鮮でした。
常田:今迄、イメージをガラッと変えたつもりでも「これがスキマスイッチですよね。」と言ってもらったり、あまり変わってないと思っても「新しいですね。」と言ってもらったりすることがあったんです。それは今迄スキマスイッチとして幾つか縛りを作っていたから、結局そんなには逸脱はしていないのかなという気持ちも少しあったんです。でも卓弥が “ゲノム”を持ってきた時に明らかに違ったので、これは面白いなと思いました。「これはスキマスイッチとしてどうなの?」と考える時期はもう終わったと思うし。
ー ちなみに、その縛りについても教えていただけますか?
常田:例えばエレキピアノやシンセは使わない。そういう縛りが幾つかあったんですが、そこを少しずつ解放していったんです。解放の仕方も、きっかけをわざと作ってみたりして。でも、そういうのも基本的にはやり尽したというか、むしろ解放し尽くした感じなんです。だから卓弥が持ってきた “ゲノム”のデモは、何とか形にしたかった。そこからです。今の僕らが面白いと思ったことをやろうと考えたのは。お互い5曲以上のデモを作ってこようという意気込みで、今年1月にデモ出しをしたんです。でもこの “ゲノム”はその前からすでにあったので、そこに引っぱられた部分は結構大きくて、色々な想いが入っています。今回のアルバムで一番最初に出来たデモでもあり、最初にレコーディングした曲でもあるんです。だから僕らの中では、ほぼ100%の気持ちでシングルとして提案しました。残念ながらシングルにはなりませんでしたが、その位想い入れがある曲なので1曲目が良いかなと。
ー そうだったんですね。先程の縛りに関してですが、<スキマスイッチTOUR2012-2013“DOUBLES ALL JAPAN”>でLaunchpadを使われたじゃないですか。
大橋:ええ。
ー あの位から、電子音が少しずつ効果的にスキマスイチサウンドに入ってきた気がするんです。それが今回、“僕と傘と日曜日”のような楽曲で、すごく瑞々しく反映されていると感じました。
常田:四つ打ちなんかもそうですが、流行っているから取り入れたと思われたくはない、ちょっとだけあまのじゃくな部分もあって(笑)。
ー アハハ。
常田:「この間聴いたから、四つ打ちをやります」みたいな感じではなくて、消化した上で取り入れたい気持ちもありましたし、実際手を出すと、とっ散らかっちゃう恐さもあるんです。「どれを取り入れたらよいか分からないけど、とりあえず今聴いたコレを入れちゃおう。」みたいな恐さというか。だからきちんと消化した上で、満を持して作りたかった。まぁそれはあくまで僕ら制作側の話ですが。ただ、今はそういうことも含め「良い」と思えばそれでいいじゃんという感じにはなりました “僕と傘と日曜日”も、「こんな感じ」って、ちょこっと弾いたものが「それいいね!」という感じでしたし。
大橋:最初は普通のバラードだったんですが、シンタくんがシンセで「ジャ、ジャ、ジャ」って弾き始めた時に、これでこの曲は面白い方向にいくなと思いました。そういう、ちょっとしたきっかけから曲が急スピードで走っていく感じはよくあります。
ー そうなですか。しかも、歌詞はとても切ないのに、サビの上昇する美しさときたらもう!!(かなり興奮気味に)
大橋:アハハ。
常田:ありがとうございます(笑)。音の洪水みたいなイメージでした。そこで、雨とリンクするかなと。あとは「泣ける」こと。涙も雨もどちらも雫ですから、その雫感や水の感じを出すためにはシーケンスの打ち込みが合うと思いました。だから卓弥にはその音の洪水に引っ張られた歌を歌って欲しかったです。「何でだよー!」って泣いているようなイメージ。でも歌だけあっても駄目だし、逆に壮大すぎても多分駄目だと思うんです。
ー マイナーコードだけでなく、メジャーコードを取り入れることで、より泣けるんだと感じました。
常田:それはJ-POPの力かもしれません。この曲はすごく王道的J-POPな曲だから。勿論それは前向きな良い意味でですが。本当に僕らはJ-POPが大好きなので、それが出ている曲だと自分たちでも思います。
ー ABCマート「Hawkins ウォーキングシューズ」 CMタイアップ曲でもある“life×life×life”は、歌詞の韻を踏む感じやフルートが軽快で心地良いですよね。この曲は現在配信中ですが、大橋さんは、こういう曲がシングルになれば良いと思っているとか。
大橋:アルバムにぴったりな曲だと思うんですが、そういう曲こそチャートを賑わして欲しいという、希望というか理想というか。海外のアーティストだと、本当にギター1本で歌ったようなすごく素朴な歌が何週連続1位とかになるのに、日本はなかなかそうなりづらい。それはひとつのJ-POPのカラーでもあるのですごく良いところだと思うし、僕らもそういうJ-POPを聴いて育ってきたので、勿論否定する気は全くありません。でも例えば、サビが始まって綺麗な流れでBメロになって、サビでは高い声を出してキラキラしたサウンドというのがJ-POPだとしたら、そこにプラスαで洋楽ランキングのテイストを入れたら面白いんじゃないかな。別にランキングが全てとは思ってないけど、そういう曲がシングルになれたら音楽自体がもっともっと幅広くなっていくのではないかと思うんです。
常田: 例えばサビで声を張らないとか。 僕らも“Hello Especially”みたいな曲をシングルリリースすることで、ある種の実験をしているところもあるんです。