ー なるほど。
大橋:もっと自然体で音楽を楽しんでいる人が世界には多い気がするんです。でも日本は音楽がフォーマット化されてしまっているんじゃないかと思う瞬間があって。そこが覆せたら、もっと面白くなるのかなという気持ちがあるので、 “life×life×life”のような曲がシングルになってくれたらいいですね。音楽は、作る方もそうですが、聴く方も色々なものが変わっていく、そこまで含めてのカルチャーだと思うので、そういうものが時代と共に変化していくのもカルチャーという意味では面白いんじゃないかな。
ー 先程のフォーマット化の話は私も感じる部分があるので、もっと様々な要素を持った楽曲が生まれて欲しいですし、我々受け取る側も、流行っているから聴くのではなく、この音楽が良いと感じるから聴く。そうなりたいです。
大橋:そうですね。J-POPというものを確立したということはとても大きなことだし、世界に通じるクオリティもあると思っています。だからこそ、ひとつの枠の中だけで留まってしまうのは勿体ないんじゃないかな。音楽はもっと自由なんだから。
常田:J-POPは宣伝的要素も大きいと思うんです。でもそこをあえて面白くしていくムーブメントが起きれば、そこに乗ってくれる人もいると思うんです。それには続けることと呼びかけが大切だと感じています。僕らなりですが、そういうことが何か出来たら面白いと思っています。
ー 楽曲の話に戻りますが、“蝶々ノコナ”はかなり大人テイストな楽曲ですね。
常田:アダルトでしょ(笑)。
ー ええ(笑)。イントロやラストサビの鍵盤はローズピアノなんですか?
常田:基本的にずっと弾いている部分はローズなんですが、今言われたシンセの部分はプロフェット5を使っています。普段はコンピューターでソフトシンセを使うんですが、あれは実機といって本物を借りました。今回はレコーディング・エンジニアの渡辺省二郎さんに全編録っていただいているんですが、実機の方が良いんじゃないかとアドバイスをいただいたんです。でも実機はアナログシンセなので、ピッチが合わなくて苦労しました。弾いていると、どんどんピッチが下がってくるから、何回かに一回はチューニングをしなければいけないんです。
ー それは結構大変ですよね。
常田:でもやはり実機の音の太さには勝てないですね!すごく良いなぁと感じながら、あのフレーズを弾いていました。
ー それが、ああいうアダルトな歌詞に合いますよね。
常田:バブルっぽいでしょ(笑)。
ー バブルね!確かに。資料によると、お二人はこの曲を「ダサかっこいい」と称していますが、バブルというワードが出て来て繋がりました(笑)。
大橋:「ダサかっこいい」という言葉は、僕らの中でよく出て来るキーワードなんです。それはすごくポジティブな意味で使っているんですが、僕らが学生時代によく聴いていた音楽が「ダサかっこいい」かどうかは、僕らの感覚的な言い方でしかないんですが、古き良き音楽みたいなイメージがあって、その頃って音楽がすごく分かり易かったんですよね。だからこそ洋楽がすごく好きだった人と、J-POPしか聴かなかった人では分かれたと思うんです。洋楽好きの人が、その時代の日本の音楽を聴いた時に、何かダサいと感じるみたいな。
ー それはすごくありますね。
大橋:でしょ!でもそれって、頭でっかちになっているだけで、洋楽=カッコいい、洋楽は素晴らしいんだという感覚がそう思わせているだけなんじゃないかな。多分みんな好きだと思うんです。その感覚を持って僕らも育ってきたので、音楽を作る時にちょこちょこ顔を出すんです。 “蝶々ノコナ”はまさにその90年代初頭のサウンド感を目指したんですが、懐かしさと今の僕らが面白いと思っていることの融合が出来たらこの曲は成功だと考えていたんです。だから、あのシンセのフレーズを聴いた時に、この楽曲は出来上がったと思いました。まぁ…おしゃれではないですが(笑)。
常田:アハハハハ!恥ずかしい感じ(笑)。
ー ちょっと分かる気が(笑)。
大橋:どちらかというと、カッコ悪い潔さがカッコいいというか。しかもキャッチーだし。
ー はい!
常田:ドリフなイメージで。
ー ドリフって!
常田:ズボンが下がったらハート模様のトランクスみたいな、そんなイメージ(笑)。でも好きなんですよ、そういうのが。そういう恥ずかしさを出したらどうかなと思って提案したら「それいいじゃん!」と言われて、良かったと思う反面 “この曲採用したんだと”という気持ちもありました(笑)。
<一同爆笑>
ー でもこの曲って、すごく耳に残りますよね。
大橋:残りますよね!それってすごい破壊力だし、音楽の中で大切な要素だと思うんです。歌えるイントロを作ろうって二人でよく話をしているんですが、歌えるイントロってみんなが覚えるし、歌の合間のちょっとしたコード進行や、メロディが一旦終わって楽器でそのラインをなぞった時に、そのメロディを一緒に歌いたくなることってあるじゃないですか。
ー あります!
大橋:そういうものを僕らの音楽でも取り入れていきたいと思うし、何しろそういうのが好きなんです、僕らは。でもそこは分析して聴いて欲しいわけではなく、みんなの元に届いた時に、何となくそういう現象が起これば良いなという感じ。「この曲では歌えるフレーズをイントロに使ったので、覚えてみて下さい。」なんて野暮ったいことを言うつもりはないですが(笑)、つい歌っちゃうイントロになれば良いなという願いを込めて作りました。
ー アルバム最後の曲“SF”は、曲として4分45秒あるのに対して歌詞が短いですよね。つまり行間ならぬ音間で聴かせる曲。サビのダイナミックさと音間が想像力を沸かせて、個人的にもかなり好きな楽曲です。
常田:嬉しいです。元々は一曲目に置くべく作られた曲なんですが、それだと今迄とあまり変わらないと思ったんです。前半部分は詞先で作ったんですが、後半部分を新たに書き加えたらアルバムの一曲目の感じがしなくて。それにこの曲はある意味、ちょっとした覚悟のような曲になったので、それを先に言ってしまうのも下世話かなと。先程のフラカンの話ではないですが、「結局僕らって、こうだよね。」というものがある曲だと思うんです。結成して15年、デビューして11年ですが、根本はあまり変わっていないんです。やっぱりみんなに聴いてもらいたいから作っている。それに、まずは相方に聴いてもらいたい、「この曲いいね。」と感じてもらいたいと思って作っている部分もあるので、相方を通してその向こうにリスナーさんがいるイメージなんです。
大橋:「こうなんです!」という強い気持ちではなく、「こうだったんだな…。」という位のテンションで言える曲になったので、やはりアルバムの最後にはふさわしいと思います。
ー この曲はThe Birthdayのフジイケンジさんがエレキギターを担当されていますね。
常田:今迄も何度かお願いしているんですが、本当に大好きなんです。かっこいい!
大橋:うんうん!
ー 来年1月からは【スキマスイッチTOUR2015 "SUKIMASWITCH"】もスタートしますね。
大橋:そうですね。制作をしてツアーをやる。そこまででひとつのよう気がして。別にCDを聴いて予習してきて下さいというわけではないですが、音源の楽曲を実際に演奏しているのを観てもらう。そこまでやってアルバムが完成するような部分もあるんです。聴いたことのある曲をステージの上で生身の人間が目の前で演奏している。このリアリティはすごく強いし、曲が成長していくと共にみんなで音楽を楽しめる空間はやはりライヴだと思うんです。勿論家でヘッドフォンをしながら歌詞カードを読んでCDを聴く楽しみ方もあるし、僕も好きなんですが、そこでしか起こらないハプニングの連続みたいなことがライヴの醍醐味じゃないですか。何でもそうですが、人の温度感が伝わることを最後に付け足したいところはあるんです。だからそういう意味でライヴは大切にしていますし、今からすごく楽しみです。
ー 最後にmFound読者のみなさんに一言お願いします。
大橋:今回のアルバム『スキマスイッチ』は収録曲数は10曲なので、ちょっと少ないのかなという印象を持つ方もいるかもしれませんが、本当に1曲1曲がすごく立っていますし、濃い作品が並んでいます。僕も出来上がった作品を車とかでよく聴いているんですが、長さ的にもすごく良いと感じています。リピートしてもちょうど良さを感じる長さ。聴けば聴くほど色々な仕掛けが分かって面白い部分が見つかると思いますし、僕らが今やりたいことを単純にみんなに届けたいという気持ちもあります。後は「スキマスイッチってこういうことがやりたいのかな」と想像してもらうにもすごく良い作品だと思うので、是非聴いて、リピートしてもらえたら嬉しいです。
常田:アルバムやシングルとリリースラッシュですので、「どれを聴いたらいいの?」と思われる方もいるかもしれないので、まずはアルバムを聴いて下さい。その上でシングルを手に取ってもらい、面白そうだなと思ってもらえればツアーにも是非来てもらいたいです。そこがひとつのサイクルで回ると音楽も面白くなると思っています。特に今回のアルバムは、歌詞カードを観てもらうと分かると思うんですが、何曲か同じテーマで書いている曲もあるので、同じ人格を持った人間が書いているということが分かるはずです。CDを手にする楽しさを持ったままライヴに来ていただけると、また違った楽しみ方が出来ると思います。
ー ありがとうございました!ツアーも楽しみにしています。
取材・文/秋山昌未
■ スキマスイッチ オフィシャルサイト
http://www.office-augusta.com/sukimaswitch/