ー タイトルの『キュビスム』はそういうところから出て来たというわけだね。
ええ。だからコンセプトというより、出来上がったものの印象として“キュビスム”という言葉が一番合っていたんです。改めて自己紹介として一番適しているような作品が出来たと感じています。
ー いつもコンセプトというのは先に考えない方?
どちらかというと後からです。曲を作る時にも「ああいう曲を作ろう。」とか「こういう路線で沢山作ってみよう」ということは全然考えなくて、何となくその時の感じでシリアスになったり楽観的になったりするので結構バラバラなんです。それでアルバムを作る時に新曲の候補を上げていって、そこから「この曲とこの曲を一緒に入れたらカラーとして成立するかも。」という感じで作ることが多いです。
ー 2月にitune先行発売した「モンタージュ」ですが、“最低まで転げ落ちたら 有名になるの?”という歌詞が、今の日本が持つ様々な問題や人への問題定義を強く感じました。
結構その部分を考えている人は、いるんじゃないかなと思うんです。何かを目指して色々な人が都心にやってくると思うんですけど、来たら来たで自分で生活のサイクルを作る中で平均値を求め出しているというか。僕も静岡を離れて名古屋や東京のような都心に出て来たひとりですが、目指すことは何となく頭の中であるけれど、生活もしっかりしなきゃいけないとか考える。それでふと気がつくと「あれ、自分は何やってるんだろう?」という瞬間がある。勿論それは人によって違うと思いますが、僕の場合すごく考えちゃうんです。「自分は何のために静岡から出てきたんだろう?」、「まだここに居たいと拘る理由は何だろう?」って。
ー なるほど。
そうやって掘り下げていくと、どんどん本能的なものに近づいていくんです。
ー 本能的というと?
かつて東京を客観的に観ていた自分は「東京だからああいう変な事件が起きるんだ。」というような偏見に近い感覚を持っていました。でも、良くないと思っていた東京という場所にいざ自分が入ってみて、様々な疑問を抱いていく中、本当に極端なことを言ってしまうと「人を殺すことは本当にいけないことなの?」ということにまで行き着くんです。…あ、だからと言って勿論人を殺すというわけではないですけど(笑)。
ー はい(笑)。それが本能的という部分だね。ある種、突き詰めた精神論的な意味としての。
そうです。法律とかを度外視した部分。だからもっともっと突き詰めると「どうして自分は生きているんだろう。」って、存在意義を考え出しちゃうんです。そうすると「この世が存在する意味は何だろう?」って、どんどん大きな話になっちゃう(笑)。
ー でもそれはすごく分かる!!気がつくと、もの凄く哲学的な話へと変化していく感じ。
そんな風に思いながらテレビをつけると、凄い人達を讃えているわけですよ。「この人はこういう苦労をして、こういう生き方をして、さすが!素晴らしい!!」って(笑)。そういうのを観ているとそれに対する羨ましさを感じる反面、イライラしてくるんです。自分みたいな薄っぺらい生活をしていてはここまでにはなれないのか?ここまでしないと幸せになれないのか?と…。でも罪を犯した人へ目を向けると、新聞には載るわ、街角のポスターには張り出されるわで、誰もが知っている。そうすると、最低まで転げ落ちたら…つまり「犯罪者になったら有名になれるのか?」となってしまう。そこに対する相対する自分の感情というものがあるんですが、それもある意味、自分の世界の中ではすごく固いものなんですが、一種の脆さみたいなものもあって。
ー まさに「モンタージュ」の世界だね。
そうなんです。それでふと我にかえるのですが、「モンタージュ」の歌詞で、“何度も睨むカーブミラー”、 “ 僕はどこだ? どの辺りだ? 何度も眺めるカレンダー”という部分があるのですが、そこで自分を客観的に観る瞬間を表現しました。カレンダーを観て我にかえる。そういうことを何度も何度も繰り返す。そのうちに最高も最低も背中合わせなのでないかと考え出しすんですが、どう捉えるかは結局人の評価で決まるのかな?って。
ー 人の評価?
自分で観た自分の評価ではなく、周りの人の評価で最低か最高かを決められるのかと考えると、そんな拘って偉い人になる必要はないんじゃないかなと(笑)。
ー 達観の域だ(笑)。そうやってsuzumokuくんが考えたモチーフを「モンタージュ」というタイトルにしたのは、ある意味の表裏一体性を見事に捉えていと思います。あと「モンタージュ」のMVでsuzumokuくんは基本的に全編スーツを着てるけど、一場面だけラフな格好で、少し困った顔で何かをなだめているよね。
「まぁまぁまぁ、そんなに怒らないで」って(笑)。
ー そうそう(笑)。あれは何をなだめているんだろうって思いながら観ていました。
あのシーンも、実は後々仕掛けがありまして。でもまだ内緒です(笑)。
ー それは楽しみ!! そして、コンセプトアルバム『80/20 -Bronze-』(2012年リリース)に収録の「ノイズ」は今回Cubism verとして収録されていますが、アレンジポイントを教えてください。
『80/20 -Bronze-』の時はアコギの弾き語りでしたが、バンドでエレキを用いた時に、曲自体がもっと強くなるという瞬間を感じることが出来たんです。今回もアコギは重ねていますが、まずエレキで録ることによって曲の世界観をもっと増幅させよういう意識はすごくありました。
ー なるほど。
逆にアコギで弾き語る時はバンドにはない緩急の付け方というのがあって、それで世界観を膨らませていたけれど、バンドにした時はやはり“音”だろうなと思ったんです。
ー それによって歌や声の表現力も変わってくる?
変わってきます。「モンタージュ」をレコーディングした時にもそれは感じたんですが、アコギで作ってアコギで録音しようと考えて実際にレコーディングをしてみるのですが、エレキにした方が断然曲の力が強くなるんです。実際、それによって声の飛び方も全然違うし。曲によってはむしろそっちの方が歌い易いということもありました。
ー ちなみに、「どうした日本」は歌詞を変えてますよね。
少し変えました。
ー これはどうして?
元々歌っていた「どうした日本」は、いわゆる原発事故からの政府に対する国民の不信感を歌ったものなので、あまりにもその色が濃すぎるんです。僕の中でその部分は客観的に書いたつもりが、「suzumokuがそう思っているんじゃないか」みたいに思われることもあって。
ー そうだったんだ。
僕はそういう意味での政治的思想は持っていないし偏りもない。だけど変だなと思うことは沢山ある。そこで歌詞を書く時に、自分の思っていることや周りで起こっていることをどうやって歌詞に書こうかと悩んではいましたが、そういう意味で、この曲はずっと書き直そうと考えていました。もしかしたら、その方が逆にもっと伝わりやすくなるんじゃないかと思いましたし。