ー 着ぐるみ?あれって大変じゃない?
めちゃくちゃ大変でした。でもその当時好きだった女の子と二人でバイト出来たんですよ。
ー おっ!
その子がバイトを探していたから、「GWでいいバイトがあるよ!」って教えてあげたんです。1日9,000円で2日間。高校生で18,000円って大きいじゃないですか。
ー 大きいね。
それでその女の子に「着ぐるみのバイトなんだけど、一緒にやらない?」って訊いたら「やる!」って言ってくれたから嬉しくて(笑)。
ー 詳しく教えて。
ウサギとクマの着ぐるみで、僕が最初にウサギをやっていたんです。でもその子が(甘えた口調で)「もうクマ飽きた〜。交換しない?」って控え室で言ってきて。やっぱり女の子は男の子より全然ませていますよね(笑)。だって着ぐるみを交換なんて、超エロいじゃないですか!
ー アハハハ!
しばらく着ていたから、汗もかいてるし匂いもね。しかも好きな女の子が着ていたものなんて…。
ー やばいね(笑)。
もう最高の2日間でした!でもその後、告白してフラれました。フラれたというか、厳密に言うと2日間のバイトが終わった後に勇気を振り絞って、近くの温泉に誘ったんです。勿論混浴じゃないですよ(笑)。
ー はいはい(笑)。
休憩室みたいなところがあるじゃないですか。マッサージチェアーがあって、牛乳とか飲むような。
ー あるね。
あそこで告白したんです。今となっては何でそんなところで?って思いますけど(笑)。そしたら「嬉しい!いつから私のこと好きだったの?」とか訊かれて。それで「来週の火曜日、5時半に教室で待ってて。そこで返事するね。」って言われたから火曜日の放課後待ってたんです。でも5時半になってもその子が来なくて、6時半になっても来ない。7時半まで待っても来ない。8時半まで待っても来ない!でも、もしかしてそもそも火曜日って聞き間違いをしたんじゃないかと思って、次の日もその次の日も待って…。でも来ない。結局2週間待ったんですよ、僕。
ー 待ち過ぎだって!(笑)電話すれば良かったじゃん。
その当時は携帯電話がそんなに普及していなかったから。
ー 自宅にかければ?
だって相手の親が出たら嫌じゃないですかぁー(笑)。
ー そうだけどさぁ(笑)。
まぁ同じ学校なので日中は会うけれど、学校で「この間の告白の件だけど」なんて言えないじゃないですか。
ー 手紙書けば?
そんな!手紙なんて書けませんよぉ…。僕としても返事を聞くのが怖い部分もあるし。でも2週間経ってようやく、これは無言のうちにフラれたんだと分かって、もう待つのもやめて帰ろうと思ったんです。それで廊下をトボトボ歩いていたら別の教室で、その子と学校イチ不良と言われている男の子がめちゃくちゃいちゃついているのを目にしちゃって。
ー うわぁ、熱出るね(笑)。
それで歌い手になっちゃいました。
<一同大爆笑>
ー 良かったよ。
え、良かったんですかね(笑)。
ー だってその経験がなければ、今ここに「高橋優」というミュージシャンは存在しなかったかもしれないでしょ?
確かに。でも好きな子のそんな姿を見た夜は、学校から最寄り駅までの間の真っすぐ伸びている農道を「ウァアアアアア!!!!」って叫びながら自転車を立ちこぎしましたよ。
ー アハハ!
まぁそこで恋が成就して幸せを見つけていたら、歌なんて歌わなくて良いんです。でも成就しなかった。ならやっぱり歌わなきゃしょうがない。多分僕は人よりも多くそういう失敗や、地味に切ない経験をしている気がするんです。だから失敗している人たちを見ると、「うわ、ダサッ!」ではなく、「分かる、分かる、 分かる!」という気持ちになるんです。そういう気持ちはかなり強いと思います。それにアルバイトには必ずちょっとした恋とか失敗がつきもので、僕の中ではどのアルバイトも何かしらのエピソードがあります。それは、どの曲についても語れるということと同じかもしれません。そういうのが沢山あるなと、今回アルバムを作っていて思いました。
ー 泥臭いまでに真っすぐな生き方を描いている “未だ見ぬ星座”。 この曲は、横浜DeNAベイスターズ公式ドキュメンタリーの主題歌にもなりましたが、ブルーステイストのサウンドと歌詞がピッタリで、何かを成し遂げたいという、どこまでも真っすぐな想いは年齢じゃないんだということに気付かされましたし、全ての歌詞が自分の人生のバイブルになるくらいの楽曲でした。
うわぁ、それは嬉しいな。この“未だ見ぬ星座”を書いた時は、横浜DeNAベイスターズのドキュメンタリー映画を拝見させてもらった後だったので、その映画に対しての感動は勿論ありました。でもその感動の根本は人としての佇まいだったんです。プロとして、その道で頑張っている人の姿というか。 僕は野球があまり詳しくないから、それまでも特定の球団を応援していたことは無かったんですが、150kmの速球がビュン!って投げられてキャッチャーミットに収められる間って、0.4秒しかないんですって。
ー えー!
つまり0.4秒の戦いを毎回やっているわけじゃないですか。その戦いのために何年も鍛えたり、メンタル面とフィジカル面のどちらも統一させていく。それって人間の戦いの最たる現場だと思ったんです。それこそ先程の話じゃないですが、アルバイトってすごく頑張っても時給750円だし、適当に済ませても750円。人によっては、いかに楽に…なんなら、いかにサボってお金を稼いで楽しい人生を送れるかという人も多いんですよね。その考え方を否定はしないけど、やはり同じ1時間750円貰えるという条件なら、僕はその1時間を750円とは関係なく、良い1時間にした方が自分にとっても誰かにとっても良い気がするんです。