ー 私は、“メトロポリタン美術館”の歌詞にある「赤い靴下でよければ かたっぽあげる」という部分から勝手にザクロを想像していました。
あー!本当だ!!確かにそうですね。でも実はサウンドの方だったんです(笑)。2011年から、ピアノと二人でライブをすることが増えて、そのピアノライヴで映える曲を書きたいと思って作った曲の中の一つが、この曲なんです。イメージとしては、“メトロポリタン美術館”っぽい童謡のようなメロディーの中に切なさがある。でもタテのノリもがっつり出せてパワー感もあるようなドラマチックな曲。そういうアイデアが先行してあったので、最初の段階では何を歌いたいかというより、そのイメージに対してのメロディラインであり、そのメロディラインに対しての歌詞という感じだったんです。その中で「ザクロの実が」という冒頭のフレーズが一番最初に出てきたんですが、それもあらかじめザクロの実をモチーフに曲を書こうと思っていたわけではなく、インスピレーションから生まれた言葉だったんです。「ザクロの実」という言葉に対して想像力を広げていき、一編の物語を綴ったという感じです。
ー そうだったんですね。この曲の資料にあるセルフライナーノーツに「ザクロはカニバリズムを連想させる」と書いてありましたが、ザクロって確かに独特な意味や諸説ある果実ですよね。
ええ。私は子どもの頃、母にずっと「妹が欲しい。」って言っていたんです。そんな時期に、子宝に恵まれるという意味があるらしく母が友だちからザクロを貰ってきたんです。だから私は「ザクロを食べると子どもが出来るんだ。」と思っちゃって、食べませんでした(笑)。
ー あはは。子どもらしい発想だよね。
まだ5歳くらいだったかな(笑)。
ー 確かにザクロって身体に良いとされているし、釈迦が可梨帝母に人肉を食べないようにザクロを与えて、そこから鬼子母神になったという俗説もあるくらいだから。
それ!それを母親が言っていたんです。
ー ああ、なるほど。
でも母がザクロの実を割って食べているところはすごく脳裏に残っていて。フォルムも他の果実とは違うし「ザクロ」という名前も印象的で、なんかグロテスクにも思えて。あの独特な赤い色が集まった感じ。元々集合体が好きなので…(苦悶の表情)。
ー というかそれ、「好きなので」と言っている顔じゃないよね(笑)。あれでしょ、穴と一緒。(「彼に守ってほしい10のこと」インタビュー内の、“ホットケーキの裏”部分を是非参照して欲しい。)
そうそう!穴と一緒。フジツボとか蜂の巣とか。嫌いなんだけどめっちゃ好き(笑)。蓮とか「うわー!」ってなる!!
ー ギリギリのラインね。ザクロは果実のつぶつぶの集合体もそうだし、その果実が無くなったあとの…。
穴!そう!!これは食べたことのある人しか分からない(笑)。まぁ今となってはザクロのビジュアルも好きなんですけどね。
ー 楽曲の話に戻りますが、歌詞にある「僕の片側」という言葉の意味が最初は分からなかったんです。でもずっと読んでいると、そこにある「ザクロの実」という言葉と繋がって、それが意味深にも取れたり甘くも切なくも取れたりとしてきて。
嬉しいです。この曲で一番大切であり表現したかったのが、その部分なので。テーマになっているのが、自分自身と言っても過言ではないくらいに大切にしたい人の存在。そういう人を失ってしまうことは、まるで自分自身の半分を失うような悲しさがある。でも、その位感じられる想いの強さとか慈しみ方とか、そういう風に人のことを好きになる姿勢みたいなことを歌いたかったんです。
ー 先程ピアノで映える曲を作りたいというお話もありましたが、真梨恵ちゃんのバンドでもピアノを担当され、ピアノライヴを一緒に回るのは西村広文さんですよね。
そうです。
ー これは私個人の印象ですが、西村さんのピアノプレイって大げさに言えば、この世にピアノと自分しかいないような集中力や、そのピアノの音と刺し違えるような緊張感がある気がするんです。でも出音はとても広がりがあるし、時に優しかったりアグレッシブだったり、きちんとした冷静さを持っている。
はい。
ー プレイヤーとしてのそういう姿が、私はどこか真梨恵ちゃんと被るんです。
すごく嬉しいです。そもそもピアノで映える曲を書きたいと思ったきっかけとしては、西村さんとの初めてのリハで、「あ、この人はすぐに分かってくれる人だ。」って感じたんです。音楽的にね。すごくしっくり来たというか。それで、二人でライブを重ねていくうちにこういうプレイスタイルのピアノで映える曲を書きたいと思ったんです。
ー じゃあ、どちらかというと、ピアノに映える曲を書きたいというよりは、西村さんのピアノに映える曲というイメージ?
そうです。西村さんの弾くピアノで、この二人の編成でやるとして一番良い曲を書きたいと言った方が正しいかもしれません。それで書いたのが、この“ザクロの実”であり、インディーズ時代にリリースした“よるのさんぽ”であり、“サファイア!”であるんです。音楽的に自分と近い感性を持った人と会うことって、共同制作をしていく上ではすごく大切なことであり、難しいことだと思うんです。当時私は、ある程度発展途上の中でライヴをしながら、もうワンステップ音楽の楽しみ方というか、ひとつのライヴで作る空気感の楽しさというか、「音楽って多分もっと自由なものだよな。」って感じ始めていた時期でもあったんです。だからタイミング的にもぴったりきたというか、編成としても曲としても、自分自身がより自由に音楽を楽しんでいる感覚がありますね。