ー そしてc/wの、“ハイリゲンシュタットの遺書”ですが、この曲の歌詞とタイトルはどちらを先に決めたの?
歌詞です。
ー “ハイリゲンシュタットの遺書”って、ベートーヴェンが書いた手紙のことですよね。そのタイトルと恋人の死を歌っている歌詞がどう結びついたのかなと思って。
そうですよね。実はこの曲のタイトルをどうしようか考えている時に図書館に行って、たまたま目に入った本のタイトルが『ハイリゲンシュタットの遺書』だったんです。それで「これ、良いタイトルやなぁ。」って思って少しページを開いたら、ベートーヴェンに関する本だったので「あ、いい!」と思って。死の匂いみたいなものを歌詞の中で直接出してはいないんですが、ほんの少しだけ匂わせたかったんです。多分セルフライナーノーツを読まないと、死んだ人に対して歌った曲とは思わないかもしれないなと思って。
ー 確かに私も資料を目にするまでは正直、読み解けなかったです。どういう関係性の相手に対して歌っているのかな?別れてしまった人かな?って。
そう。でも、もしかしたら付き合ってさえいなかったかもしれないし、ただ単純に今、傍に居ないだけかもしれない。私の気持ちとしては、自分の愛する人が亡くなったらどうなるだろうと考えて書きました。ただそれを前面に打ち出すのではなく、ほんの少しだけその匂いがするワードだと良いなと思い、「遺書」と付いているタイトルにしました。
ー そういう意味では、とてもセンシティブなことを歌っているように思うけれど、言葉遊びやアッパーなサウンドが、楽曲自体をネガティブに聴こえさせないですよね。
そのバランスはもの凄く考えました。すでに1曲目と3曲目が決まっていたので、2曲目はどういう曲にしようという部分も加味して書き始めたんです。今作は、大切なものを失うということをテーマににひたすらに切ないシングルにしたかった。それでいて耳に楽しくて3曲通して聴いても真面目すぎないというか。ずっと真面目だとどうしても面白みに欠けてしまうので、この曲は歌詞もメロディもアレンジもトータル的に、音楽として楽しくさせたかったんです。
ー なるほど。確かにサウンドの楽しさは聴いていて楽しくなります。それと色々なシチュエーションで何度もこの曲を聴いていたんだけど、一番最後の「会いたいと思ってるのはこちらだけでしょうか」の部分だけが、何故か毎回耳に引っかかるんですよね。
あっ、すごーい!でも何で?
ー いや、全く分からない(笑)。
あはは!実は私、このフレーズの今言われた最後の部分だけ生々しく感情的に歌っているんです。後はなるべく感情を込めずに棒読みに近い感じで歌おうと思って。この曲のサビって実はその部分だけだと思っているから。
ー 嬉しい!その部分を感じられたのは幸せかも。
ありがとうございます!
ー この曲はdoaの徳永暁人さんがアレンジやプログラミングなどを担当されましたね。
はい。アレンジは楽しい感じのピコピコした音、その全て打ち込みでいきたいというのは最初の段階から決めていたので、徳永さんにもそういうイメージでお願いしました。でも徳永さん、アレンジを仕上げてくださるのがメッチャ早いんですよ!「え、もう来たんですか!?」って(笑)。
ー そうなんだ(笑)。
それで細かい部分の直しをお願いしたら、またすぐに来て。最初にデモテープをお渡ししてから1週間くらいで出来上がりましたもん。
ー それは早いね。それだけ徳永さんの中でイメージが出来ていたのかもしれないですよね。
そうだと嬉しいです。お陰でとても良いアレンジに仕上がったと思います。私はいつも、ベースラインが肝だと思っているんです。だから、「理由は分からないけど何故か切ない」と感じるようなベースラインを徳永さんにお願いしました。
ー 物語性のある“ザクロの実”、テーマとサウンドの“ハイリゲンシュタットの遺書”、そして3曲目の“朝焼けの番人”はピアノと歌のみですが、一気にリアルな風景や生身の人間の感情を感じました。
この曲は3曲の中で一番ノンフィクションというか、自分が本当に辛い時に自転車に乗って帰ってくる間、頭の中にいっぱいあった言葉たちをそのまま家に帰ってすぐにノートに記して出来た曲なんです。だから全然気持ちの整理もつかないままに作っている曲。そういう意味で人間っぽく生々しいかもしれません。