「アイ」「メトロ・フィルム」「エンドロール」その他、秦 基博のMVを多く手がける映像作家 島田大介氏とのコラボレーションLIVE【Hata Motohiro Visionary live 2013 -historia-】が神戸・横浜4DAYS限定で開催された。
ライヴ演出で映像を用いることは珍しくない。
しかしコラボレーションLIVEと銘打つライヴはそうはないだろう。
島田氏の映像が秦の音世界を広げることを知っているが、どういうステージになるのか想像しがたい部分もあり、12月17日(火)パシフィコ横浜 国立大ホール公演の初日へ向かった。
ライヴスタート前、まだ薄暗いステージには小屋、東屋のような建物、歯車があるのが見え、ヨーロッパのサーカスや移動遊園地を思い描いた。
客電が落ちると聴こえるのは街の雑踏。
カメラのシャッターを切る記者役の男性が登場すると、小屋や建物を撮るシャッター音が響く。
そして会場に向けてシャッターを切った次の瞬間、中央のスポットが秦を照らした。
突然の登場に驚く声と“Hello to you”のイントロが重なり、ギターを弾き語る秦の歌声と共に小屋や建物に少しずつ白い光があたる。
8mmの映写機で映すようなぎこちない、それでいて優しく懐かしい光によってそれらはハッキリと姿を現した。
“Hello to you”が終わるとギターを置き、上着を脱ぐ秦。
同じようにそっと上着を脱ぎながらバンドメンバーの久保田光太郎(Gt)、河村“カースケ”智康(Dr)、鹿島達也(B)、皆川真人(Key)が登場。
オリジナルアルバム『Signed POP』を携えて今年2月から6月まで開催されたツアー【HATA MOTOHIRO “Signed POP” TOUR 2013】と同じメンバーだ。
いつもと違う雰囲気で始まったコンセプチャルなライヴに、曲が終わっても秦の名前を叫ぶオーディエンスの声はまだ聞こえない。
それでもやはり秦の歌声はいつも通りオーディエンスの心を溶かしていく。
“やわらかな午後に遅い朝食を”では、ウッドベース、ドラム、ギター、鍵盤と順番に音を重ねると、3つの美術セットは映像と立体の狭間で光を放ち、ステージ背景には煙突が連なる雲深い街並みが見えて来た。
「Hata Motohiro Visionary live 2013 -historia-へようこそ! Visionary liveって何だろうって思っている人もいると思いますが、気にしないでいいです(笑)。」秦らしいMCの口調にやっと会場から笑いがこぼれると、いつもと違うライヴを楽しんで欲しいと続ける。
“初恋”のアンニュイなメロディはイントロを聴いた瞬間から胸が締めつけられ、“アゼリアと放課後”ではアゼリアを思わせるような優しい赤のライトにハンドクラップが響く。
2013年間USEN J-POPランキング1位を獲得した“Girl”では、色を持つ光がセットにあたると、小屋にはポニーテール姿のダンサーが切り絵のようなシルエットで映し出され、メロディに合わせて小屋から建物へ、そして歯車からまた小屋へと軽快に踊り出し、歯車の中央では樹が成長している。
プロジェクション・マッピングが駆使されたステージは、曲によって様々な変化を見せた。
MCでは、地元横浜でライヴをやりたかったということや、会場となったパシフィコ横浜にはジェームス・テイラーとキャロル・キングのライヴを観に来たことの他に、このプロジェクション・マッピングの話にも触れた。
「僕が言えば何でも出来るんです。」と言いながら「パリーン。」と割れる音を口で表現すると、美術セットに投影された白い照明は見事に割れる。
何度かそんなことをやっているうちに会場から「パリーン以外は?」という声。
ひるまず「パリーン以外は今、ちょうど切らしてるんだよね。」と、どこかで聞いたことのある(笑)台詞で会場を笑わせた。
しかし椅子に腰掛け、“Dear Mr.Tomorrow”を弾き語ると雰囲気も一変。
のびやかな秦の歌声は鼓膜を優しく震わせ、建物に映る走馬灯のような映像はどこか懐かしさを覚えた。
続く“Lily”ではバンドメンバーも再び登場。
ウッドベースとギターが怪しく共鳴すると、ステージの床には真っ赤な光の粒が柘榴のようにこぼれ落ちる。
秦の気だるげな歌声。
彼の低音はこんなに広がりがあったろうか?
ある種の色気をはらみながら深く深く響く。
秦の歌声とメロディの美しさの中、島田が手がけた “dot”の映像は圧倒的な世界観を持っていた。
雨粒と星空が子どもや動物が走る姿に形を変えたり、惑星が横切ったり。
な色合いも、会場を照らす細い青の光もすべてが “dot”の世界の中にあった。
“言ノ葉”、“グッバイ・アイザック”とカラフルな映像が秦を包むと「楽しんでますか?横浜!もっともっと楽しんでもらいたいと思います。準備はいいか?」と“花咲きポプラ”へ続け、秦の呼びかけにオーディエンスのハンドクラップが満開に。
秦がエレキを歪ませる“パレードパレード”で建物はメリーゴーランド、歯車は観覧車と模様を変えていた。
秦と島田のコラボによって生まれたコンセプチャルな空間は本来、音にない「色彩」と映像にはない「メロディ」を具現化した。
赤いビロードのカーテンが揺れる小屋、灯籠のように赤く燃える建物、赤い風車のように羽を回す歯車。
“自画像”での「赤」はどれも淫らで、ハモンドの音はクール。抑揚のないメロディと、吐息の延長のような秦の声。
次第に激しさを増すリズムが最後の一音を終えた時、会場からは割れんばかりの拍手と歓声が響いた。
“綴る”では、それまでシルエットだったダンサーが登場。
赤いスカートをひらりとさせながらダンスを踊り、記者も再びステージに現れ写真を撮り出す。
秦の歌声は煌びやかなイルミネーションの光となって繊細なサビへと舞い上がる。
今年は2枚のアルバムリリースや、31本のツアー、夏フェス、イベントなど勢力的だった秦。
ツアーメンバーともツアーが終わって「ハイ終わり」では寂しいと語る。
そしてツアーの答えの先にあるものとして何か違うことが出来たらという考えから、秦のMVを多く手がけている島田大介氏とのコラボライヴに行き着いたと言う。
デビューして8年目の秦は「新しく、常に生まれ変わっていけたら良いなという想いがあるんです。この Visionary liveはそれがすごく表れていると思います。それと同時に、変わらないものも大切にしたいなと。すごい欲張りなんですけど(笑)。ずっと変わらずに大切に取っておきたいもの、そして新しく生まれ変わりたい想い、その融合が今回の“Visionary live”だったと思います。今後どうやって育ってくれるか僕自身も楽しみです。これからも色んな形で、でも変わらない歌をみんなに届けられるよう歌っていきたいと思います。」
秦の言葉に再び拍手喝采がおくられると“風景”で本編は終了。
アンコール、“鱗(うろこ)”のイントロに歓声が上がる。
本編最後の挨拶で秦が言った「変わらない歌」が今まさにここにあった!
「今日は皆さん、どうもありがとうございました! Visionary liveが地元横浜で出来たのは本当に嬉しかったです。また会いましょう!!」と嬉しそうな笑顔を見せると、“ドキュメンタリー”でパシフィコ横浜初日の【Hata Motohiro Visionary live 2013 -historia-】は幕を閉じた。
翌日のファイナルでは、2年ぶりにアコースティックライブ“GREEN MIND”を来年4月30日よりツアー開催することが発表された。
日程・会場などは12月25日(水)のクリスマスの夜に明かされるらしいが、来年の秦はどんな色彩を見せてくれるだろう。
カメラマン:杉田 真
TEXT:秋山昌未
01.Hello to you
02.やわらかな午後に遅い朝食を
03. 今日もきっと
04.青い蝶
05. 初恋
06.アゼリアと放課後
07.Girl
08.メトロ・フィルム
09.Dear Mr.Tomorrow
10.Lily
11.dot
12.言ノ葉
13.グッバイ・アイザック
14.花咲きポプラ
15.パレードパレード
16.スプリングハズカム
17.自画像
18.綴る
19.風景
ENCOR
01.鱗(うろこ)
02.ドキュメンタリー