ー 千原ジュニアさん、バカリズムさん、劇団ひとりさんに監督してもらった部分もありましたよね。

ええ。その部分の撮影自体は僕がやったんですが、3人にも色々考えていただきました。万里の長城とかが出るシーンは完全にコントというか、ギャグっぽくなるんですが、僕が考えたシナリオが結構重いというか、振り幅だけみるとこの曲自身の持つイメージとは逆にあると思うんです。映像だけ観るとすごく暗いものになるというか。だって電車に乗って席を譲ったら断られて、降りぎわに書類を落としてみんながそれを素知らぬ顔をして通りすぎていく。自分は世間から邪魔だと思われているんじゃないだろうかというサラリーマンと、学校でイジメにあっている女子高生。結構辛辣な内容じゃないですか。


ー 確かに。

でも「明日はきっといい日になる いい日になる」って畳み掛けるシーンなので、最後の方で少しギャグっぽい要素があることが良かったんです。。


ー 私は今回、MVの映像と「どの出来事も君を彩る絵の具になる」という歌詞の部分から優くんの楽曲“CANDY”を連想しました。でもただネガティブなだけでなく、いじめも経験のひとつとしてポジティブな未来へ繋げていくような、「いじめられている今が全てじゃないよ。」って言っている、そんな感じがして。

かなりマニアックな見方ですね（笑）。


ー あ、そうだった？（笑）

この曲を聴いて、 “CANDY”を彷彿とさせると言ってくれる人は、かなり僕の音楽をずっと聴いてくれている人の感想な気がします。だからすごく嬉しいです！まさしくそこで僕が「絵の具」という言葉を入れたのは、ひとつの印象に止めたくなかったからなんです。それと僕は「傘」もよくキーワードとしで出すんですが、 “CANDY”の中では「傘」がいじめられた悲しいアイテムとして登場します。


ー 壊された傘だね。

そうです。親に買ってもらった可愛い傘に穴を開けられて。でもそれを言えずに、ぼろぼろになった傘を川縁に隠して、親には落としたと嘘をついた。でも同じ傘でも、インディーズ時代の楽曲“泣き虫空に可愛い傘”では、空が泣いているなら可愛い傘を見せてあげて励ましてあげよう的なメルヘンチックなことを歌っています。僕は昔からこうやって色々な楽曲で同じキーワードを違う視点で散りばめることが好きなんです。


ー 監督はまたやってみたい？

やってみたいです！これは僕の個人的な気持ちだけど、僕自身映画が大好きだから、カット割や絵コンテ、曲に合う映像を想像するといくらでもイメージが出てきます。


ー 映画を観る時に「自分が監督だったらこうするのに」と思うことあるんじゃない？

それはないです。でも逆に、今回MVの監督をさせてもらってから、“あ、こういう手法もあるのか！”とか、“こことここは繋がっているように見えるけど、きっと一度カット入れているだろうな。”ということが分かるようになりました。恐れ多いですが、一度でも撮る側目線みたいな部分を経験したことで、それを楽しめるようにはなりました。だから逆に、監督に変な文句とか言えないと思いましたよ（笑）。


ー なるほど（笑）。

以前は何も知らないただの映画ファンだったし、映画が好きだからこそ評論できるくらいでいたいと思っていたので、「いやぁ、あの映画はオチがちょっとなぁ。」とか「途中ちょっと萎えたよねぇ〜。「パート1は良かったけどパート2はちょっとなぁ〜。」なんてバンバン言っていました。でももう言えません！それに映画は監督のみが作っているわけではないですし。例えば今回僕のMVで言えば、芸人の方々に考えていただいたシーンも、映像だけ残っていけば、そこも結局は高橋優が作ったと思って観られる日がくるかもしれないじゃないですか。


ー ひとりひとりに説明出来ないからね。

そうなんです。だからもしあのアイデアを褒められたとしても、自分から出たものではないし、他の部分だってもっと時間があればもう少しこういう風にしたかったという想いは多少はあります。もしかしたらどの映画監督も完璧なものが出来たとは思っていないかもしれない。でも人間だから、みんな大なり小なりそういうことってあるじゃないですか。


ー ええ。

そう考えれば、今迄観ていた映画作品に対しても少し寛容になったというか、どの作品も人間らしさが出るんだと感じました。色々な事情で内容を変更する場合だってあるだろうし。


ー 例えば、予算やスポンサーとか？

そうそう。でもクリエイターがそういう状況を上手く逆手に取ることもある。 影響力がある人の判断というのが、必ずしも自分自身で決めた判断ではなく、あらかじめ決められた…それこそ今言われた、予算やスポンサーの都合もあるかもしれない。色々な意見の中で、中心にいるクリエイターの人が悩んだり迷ったりしながら判断を下すということが、映画や音楽にも沢山散りばめられていると思うんです。純粋にその人ひとりの想いだけで完成した作品という方が絶対に珍しいと思うんです。だからやはり好き勝手なことは言えないと感じました。


ー 確かに何かを作るというのは、それが大きければ大きい規模であるほど様々な人の手が入りますからね。

そうなんです。クリエイターは大変だし、監督という仕事はとても多くのものを背負わなければいけないんだと、ほんの5分弱の映像を作るだけでも思いました。


ー では改めて楽曲のこともお訊きします。“明日はきっといい日になる”を聴いた時に、優くんのシングル曲でここまでただひたすら前を向いている楽曲って、今迄ありそうでなかった気がしたんだけど。

シングルでは初めてです。