キリンジ「KIRINJI TOUR2010/11」@渋谷 C.C.Lemonホール
2011年を迎え、やっとお正月気分が抜け始めた1月7日(金)、年明け一番最初の「KIRINJI TOUR2010/11」が東京・渋谷 C.C.Lemonホールで開催された。
シンプルなステージに流れるおごそかなクラシカルナンバー。バンドメンバー、そしてキリンジの2人が静かに登場。
どうしてキリンジはこんなにも冬という季節が似合うのだろうか?
…というか、どうして冬になるとこんなにキリンジを聴きたくなるのだろうか?と言った方が正しいかもしれない。実は年末からこの日のことを考えると妙に胸が踊ったのだ。
スティールギター、バンジョー、アコーディオン、スティールパンの音色を次々に従えて キリンジメロディが現実と夢の世界を浮遊する。 幾重にも折り重なるように構成される、厚みのある音の世界は「高圧」とは限りなく遠い。深く沁み入るのだ。そして弟・堀込泰行の歌声は、寒くてガチガチになった体と、脳みそをふにゃふにゃにしてくれる。
先に「キリンジは冬が似合う」と言ったがしかし、夏の歌もいい。昨年リリースした「夏の光」は、低いバスドラの響きに誘発されるように光るライトと、キリンジにしては珍しく最後まで保たれた高いテンションが、まるで迫り来る夏の入道雲のようなワクワク感を煽る。
そしてやはりライヴで一度観て…いや、聴いてみたいと思っていたのが「セレーネのセレナーデ」だ。7分45秒という大作であり、私自身アルバム「BUOYANCY」の中では最も好きな曲。兄・堀込高樹の口笛とスティールギターの音色が緩やかなカーブを描き、泰行の声は繊細にそのカーブを登ったり降りたりする。
歌が終わり中盤の世界を繰り広げるスティールパンの音色は何と美しいのだろう。
「昨年はツアーでライブハウスを回りましたが、急に(ステージが)広くなったからどこに居ればいいか…。」と、泰行が言うと会場は笑いに包まれた。どうにも歯切れが悪いトークに、高樹がとうとう「まだ、おとそが抜けてない感じですか?」と突っ込み、堰を切ったように会場に爆笑が広がる。
懐かしめの「嫉妬」では客席から歓声があがり、「都市鉱山」ではニューウェーブなサウンドと、ディスコティックに光るライトを背に受け、エロティシズムさえ感じてしまう高樹の世界と歌声はかなり強力だ!しかし、やはりMCになるとその強力な歌声は別の意味で強力になる。
「お正月は何をしていましたか?」との泰行の問いに、兄の高樹はすかさず「実家に帰っていましたよ。またあなたは帰らなかったですね。正月に僕と会うのがそんなに嫌なんですか?(笑)」と、答える。曲もそうだが、キリンジはトークが面白いと、キリンジファンの友人から聞かされていたので実はそれも楽しみにしていた。然程多いわけではないMCだが、淡々と笑いをとってしまう。
時に泰行の声がライナスの毛布のようにどこまでも温かく穏やかであっても、時に高樹のギターがどれだけ歪んで鋭利な陰影をつけようとも、MCでどれだけ観客を笑わせ、湧かせようとも、始終キリンジは「キリンジ」のスタンスを絶妙に保っている。躍起さがない。と言ってしまうと語弊があるかもしれないが、そのマイペースさが絶対の魅力だと思う。
そしてこれは人によって見解が違うだろうから、あくまでも私個人の印象として書くが、CDを通して聴く彼らの空の青さや汗はとても生々しい。しかしライヴで彼らが描く世界はもっと大きく、まるで映画のワンシーンのように思え、その全てに現実を忘れそうになった。特に本編ラストの音の世界はあまりにも圧巻で、主のような深海魚が深い海を悠々と泳ぐ、そんなシーンさえ空想してしまうほどだ。彼らのアルバムタイトルを借りるとすれば、これこそ BUOYANCYだ!
1月22日(土)沖縄 桜坂セントラルで「KIRINJI TOUR2010/11」はファイナルとなる。
取材・文/まさやん
※セットリストはツアーファイナル後、23日に公開いたします。
<2011年 ツアーファイナル スケジュール/チケットinfo>
2011/01/22(土) 沖縄 桜坂セントラル open/start 17:30/18:00
[問]BEA 092-712-4221
• 一般発売日:2010年10月30日(土) 全席指定:¥5,775(税込)
• ※沖縄公演のみ全立見:¥5,000(税込)
• ※当日別途ドリンク代要:¥500
• ※未就学児童入場不可
• TOTAL INFO:サイレン・エンタープライズ 03-3447-8822
• 企画/制作:ナチュライズマネージメント/サイレンエンタープライズ
◉キリンジ 公式サイト http://columbia.jp/artist-info/kirinji/index.html