ー それがずっと聴いていて疲れないという部分に繋がるんですね。
岡本:そうそう。確かにラジオなどで流れると、ロックらしい押しの強い音の方がバーンと来るので引っかかりはあると思いますが、ずっと聴いていると疲れてくる場合もある。
ー なるほど。
岡本:だから、ある程度音量を下げて聴いても「いいな。」と思えたり、ロックに聴こえたり。逆に大きな音を出していたとしても、静かな曲は静かに聴こえる方がいいなと思ったんです。今回はそういうバランスをとって仕上げていったという感じかな。余裕というか遊び、のりしろ感がある気がするんです。直したいと思ったり、もっと音を入れたいと思った曲が実は何曲かあるんですが、我慢しようと思って(笑)。
ー それがのりしろ感ですか?
岡本:そう。あまりにも完璧な状態というのは逆にどうかなと思ったんです。たしか兼好法師の「徒然草」でもあったけど、巧みの人が寺とか作ってもあえて少しやりのこした部分を残して終わらす感じ。
ー すごい例えですね(笑)。
岡本:やはり完璧にしすぎると、それはそれで世界が固まってしまい終わっちゃうから。だから少しだけやり残した部分があったり、あえて逆さまにハメておいたりすると、不完全だからこそ次に動き出すということがあるらしいんだって。
ー それは分かる気がします!
岡本:そういう仕事の仕方もあるんですよね。それが次へのモチベーションに繋がる。だから今回音を抑えたり不完全のままにして良かったかも。でもその後、多分洋介が直してるはずだけど(笑)。
佐藤:(笑)。
ー でもそれは、あ・うんの呼吸というか、COILとして15年積み重ねてきた足し引きが良いバランスとしてあるんでしょうね。
岡本:そうかもしれないです。例えば僕がアメリカンな音を求めているとしても、実際やってみると洋介の持っているイギリスっぽいイメージの方が合っている場合があって、すぐそちらにアレンジや演奏の方向性を切り替える。それもコンピューターになったから出来ることですが。
ー 今回15周年ですが、それ以外のテーマというものは持たせたのでしょうか。
佐藤:テーマみたいなものを考えようかって、ニコ生が終わった後にみんなで話し合ったりもしたんですが、最終的にはそんなきっちりしたテーマはなかったのかな。
岡本:なかったね。ディレクターは「15年目のデビューアルバムみたいな感じにしましょう!!」って鼻息荒く言っていたんだけど(笑)。ただ僕らは色々な音楽が好きだから、どうせなら色々なタイプの楽曲を入れようという話はしました。でもあまりとっ散らかってしまうのは良くないから、何となく僕の中にイメージとしてあったのはギターポップ。90年代のインディーズリバイバルではないけれど、デビュー前やデビュー当時にすごく影響を受けて宅録し始めた頃のニュアンスは入れたかったです。
ー いいですね。
佐藤:僕はファンク!
岡本:そうそう。あとはどうしてもビートルズからの影響は出て来るので、楽曲によっては鍵盤やギターなど軸になる楽器を決めたり、静かな音でアプローチするのか賑やかな音でアプローチするのかのバランスをとって段々と形が出来てきました。
ー 確かに今作『15』は、随所にビートルズ愛を感じましたし、全体的な甘酸っぱさと浮遊感はずっと聴いていても心地良かったです。
岡本:そうだよね!ずっと聴いていても疲れない。…って、自分で言うのも変だけど(笑)
ー いやいや。私も大人チームだから、余計そう感じるのかもしれませんが(笑)。
岡本:食べ物と一緒で、若い頃はジャンクフードや濃い味が好きだけど、今は玄米とかお魚とか、さっぱりあっさり味をちょっとずつ摘むのがよくて。
ー そうそう!
岡本:耳もそうなんだよね。インパクトだけでガーッと来ちゃうと疲れてしまう。
ー 15年前のデビュー当時のことって覚えていますか?
岡本:覚えてるよ。でも結成する前から洋介は弟の友達だったから、結成した日のことはなぁ…。15年前というとすごく昔のことのように思うじゃないですか。例えば15歳で中学校を卒業した人が現在30歳になっていると考えると確かにすごい歳月を重ねたと感じるけど、僕ら位の年齢になると15年前にデビューした頃と今って、そんなに変わりはないんだよね(笑)。
佐藤:二人の間に年齢差はあるものの、デビュー当時でお互いすでに30歳位でしたから(笑)。
岡本:それより怖いのは、今から15年後がどうなっているかだよ!
<一同爆笑>
佐藤:でもサダ(岡本)はあんまり変わらないね。昔から沢山本を読んで沢山音楽を聴いてという感じだったから。
岡本:そうかもしれない。洋介も昔から機械や車に詳しいという面は変わっていないね。ただ「こんなに繊細だったっけ?」という点は少し前から感じます。音の面や作業の面でも「ここの部分はこうしてああして。」って。そういう話を聞いていると「えー、この作業に取りかかる前にそんなことやらなきゃいけないの!?」と驚かされます。例えて言うならば、出汁や水にこだわって「これは違う!」って言いながら店が閉まった後も一人でコツコツとやっている料理人みたい。
ー 何かすごく分かる気がします!!!
岡本:分かる?! 僕なんて味噌か醤油か位しか分からないけど、そこにいくまでの工程で水とか素材、煮込み時間を考えて研究を重ねている人。
佐藤:実は家で料理する時もまさにそうなんです(笑)。そんなに頻繁に料理をするわけではないけど、麺類が好きだから鰹節にはこだわりますね。「この味には宗田節の方が良い!」とか。
ー まさに料理人じゃないですか!
佐藤:そんなに詳しくはないけど、でも男の料理って金がかかるんです。高いものを買うから(笑)。だから女の人から見ると「考えられない、残ったものどうやって使うの!?」と思うんじゃないかな、きっと。でも実際、料理ってエンジニアリングと一緒だと思います。混ぜる量とバランスですごく味が変わるんです。だから、何を入れると味変化するのかが分かると面白い。「お!この味はお蕎麦屋さんみたいだ!!」って。
岡本:僕なんて、麺を茹でることしか出来ない(笑)。