ー それが良いコンビネーションなんでしょうね。両方が大まかなイメージだけだと良い作品は出来ないでしょうし、こだわることのみに徹してしまえばリリースが出来ないですし。
佐藤:それは絶対あるね。
岡本:僕が「こういうコンセプトで鶏そばを作る!」と決めて、洋介は人知れず出汁を研究する。その間僕はこれをいくらで売るかを考えたり、しょっぱさはこの位とかしか言わないの。そうすると洋介は「このしょっぱさは塩ではなく違う何かが要因だから…」っていいながら調整する。
ー では今回も、良い鶏そばが出来ましたね!
岡本:そうそう!
ー では何曲か楽曲についてもお訊きしたいのですが、まず“ボンデージ・スーパーカー”はデビュー当時からデモがあったそうですね。
岡本:デビュー曲になりそうだった。
ー 何故この曲にならなかったんですか?
佐藤:この時?(笑)
ー その含みのある笑いは?(笑)
佐藤:色々政治的な力が…ウソウソ(笑)。
岡本:みんな、“ボンデージ・スーパーカー”でいこうとなったんだけど、社長のGoサインが出なかったんです。
佐藤:この “ボンデージ・スーパーカー”は、事務所にデモテープを送った時に気に入ってくれた曲のひとつでもあるんです。
ー そうだったんですか。
佐藤: まぁ右往左往しましたが、 “ 天才ヴァガボンド”をデビュー作としてリリースして結果的に良かったと思います。途中で一度リリースしようかというタイミングで録ったこともあったんです。
岡本:え、そうだっけ!?
佐藤:録音したじゃん!
岡本:あぁ、そうだ! “アベレージ・ガール”(2005年 アルバム「CINEMA」収録) の頃だったかな。
佐藤:自分達の音楽モードとして、少しオルタネイティブな要素が強い時があったんですが、その時は上手くまとまらなかったというかタイミング的にも違うかもしれないと思い、リリースはせずに15年の歳月を経て、やっと出すことが出来ました。
ー 元々あった音源とアレンジは変えたのですか?
岡本:アレンジ、構成ともに殆ど変えてないです。
ー ギターの音がとにかく格好良いです。歪み方とか。
岡本:あ、それはすごく嬉しい!洋介も僕もすごくこだわった部分だから。
ー 実は、mFoundの編集部のメンバーが「オフィスオーガスタさんの中でCOILが一番好きかもしれない。」って言っていたんです。
岡本:それ、もうちょっと大きな声で。何でそこだけ声小さいの!!
<一同爆笑>
ー 先ほど全体的なビートルズ愛というお話も出ましたが、特に“ニューモーニング”は楽曲としてもかなりビートルズ愛を感じました。
岡本:昔ほど直接的にギミックするというよりは、一回消化して自然に出て来るという感じかな。これだけ長いこと音楽をやっていて、どれだけ新しい音楽が出てこようとも、自分はこういう音楽がやっぱり好きというものは持っている。たとえ今は昔ほど頻繁に聴かなくなっていても。だから、「この曲は当時聴いてきたあの曲っぽいイメージがいい。」というアイデアが出た時に、綿密にその曲を聴き返すのではなく、自分の中に持っているイメージでそこに持っていく。アメリカっぽい感じとか何年代のイギリスっぽい感じとか。
ー なるほど。
岡本:似せて似せて模写するというより、自分の中の記憶とイメージで作る。そういうことが出来るようになったというか、そっちの方が良いと思えるようになったから自然に出てくる感じで、結果サウンドや楽曲のイメージがビートルズっぽくなる。
ー いいですね。
岡本: 自分が今ハマッているものやモードというのはあるんだけど、今迄の自分達の経験の蓄積が自然に出せるようになってきた時期なんじゃないかと思っています。(手元に置いていた山崎まさよしさんの最新オリジナルアルバム『FLOWERS』 (限定盤)のジャケットを指差しながら)…これです、山崎まさよしくんのお花ですよ。
ー ん?
岡本:種を蒔いたり耕したりするのと同じで、色々な音楽を聴いたり作ったりすることでいつしか花が咲いている。それで気がつかないうちにその種が落ちてまた花が咲いてる。自分は最初しか種を蒔いていなくてもそうやって実りのサイクルが出来ている。つまり何度も聴き返さなくても、自分の中で積み重ねたものが花となって表現できるようになったのかなと思います。
ー 確かに、完全にお二人の中に蓄積されたものを楽しみながら音にしている余裕というか、遊び心を感じます。
岡本:一時期のPUFFYを手がけている頃の民生くん(奥田民生)じゃないけど「(ビートルズ)好きなんでしょ!!!」という愛情溢れる感じ。
ー そうです、そうです! 2011年に一部ライヴ会場と通販限定の三部作(カフェラテ・ボサノヴァ・ソナチネ)から“薔薇とシャボン”、 “バルコニー”、 “僕と彼女とモーツァルト”、“ノスタルジア”を新録されていますね。
佐藤:はい。ベーシックには元音があるんですが、あの時はデモの要素が強かったのでドラムも打ち込みでそれっぽく作ってあったり、それに合うようなアレンジやミックスをしています。それに対して今回は、このアルバムの持つ大人の雰囲気に合わせるようなアレンジを施したり、若干キーとテンポが違ったり。でも、もしかしたら今回の『15』に入っている方が本質かもしれません。前作は僕たちが衝動的にどういうことを思っているのかというのを表現している。アーティストが出したデモが後から日本特別盤みたいな形でCDになることってよくあるじゃないですか。(笑)
ー はいはい(笑)
佐藤:そういう気分で聴いてもらっても良いかもしれません。そうすると元曲が聴きたくなるじゃないですか。
ー 絶対なります!!
佐藤:それで「この曲がこうなったのね。」と感じてもらいたいです。そこでデモ盤と本編が好きな人が分かれる。
岡本:どっちを先に聴くかというのもあるよね。
佐藤:意外とデモ盤が好きで、そっちばかり聴いていた人は本編聴いたらしっくりこない場合もあるね。そういうのが色々ある方が面白いんじゃないですか。