ー 今作はバリエーション豊かですね。

上間：たとえば“新川大漁節”。以前の取材でもお話させていただきましたが、沖縄民謡はどんどん新しい作品が生まれていて、更に新しい色を入れていくことが本当の意味での伝統芸能の継承だと思っています。今、自分が生きているこの時代を歌わないとぽっかり穴が開いてしまうようなものだから、先輩達のそういう精神を受け継いで、自分が幼い頃からずっと演奏してきた民謡 “新川大漁節” をアレンジしてみたくて今回収録しました。でも最初はバンドでカッコいいやつ！ということだけしか頭になかったんです（笑）。それで五十嵐さんに根岸孝旨さんを紹介してもらったんですよね。

五十嵐：そうだね。あまり歪曲していくというよりは、上間が中心にいて今迄の民謡そのままにみんながジャムるという感じ。だから上間自身はそんなに変わらなくていいというアプローチがこの “新川大漁節” でした。でも「そのかわり、回りがガッツリ変わるけどビックリしないでね。」って（笑）。

上間：いや、ビックリした（笑）。

五十嵐：ネギボー（根岸孝旨）には飛び道具系のものを頼むことが多いから「本当にガッツリやっていいの？」と言われたけど「大丈夫。ガッツリやっちゃって！」ってお願いしました。でも殆どセッションで歌も演奏と共に録れたし結構盛り上がったね。

上間：すごく楽しかった!

五十嵐：面白いセッションになった。ギターの西川さん（西川進）やドラムの湊さん（湊雅史）をはじめ、個性的なメンバー揃いで、この人じゃなければこうはならないという録音も出来たし。

上間：そんなに何テイクも録らなかったもんね。

五十嵐：3回とかそれ位？結局テイク2がOKじゃなかったっけ？

上間：そうだったと思う。根岸さんから仮音源が来た時に、聴く人でこうも音の捉え方が違うんだというのが私の中では衝撃でした。今迄も民謡をアレンジしている人は沢山いて、そういう方々なりのアレンジも新鮮だったけど、それを真似するのでは面白くないとは思っていたんです。でも「ネギボーは飛び道具だから」と聞いてすごく楽しみにしていました。

五十嵐：（笑）

上間：だから根岸さんの音を受けて、 基本は変わらないものの私の歌い方もやはり変わりました。普通の民謡の時はあんなに勢いのある歌い方はしないんです。ああやって唸って歌うのは根岸さんのあの音があったからだと思いました。

五十嵐：上間は伝承者という部分があるじゃないですか。だから僕らとやって上手くいくかいかないかはさておき、多分一生歌い続けていく人だから、そういう人と一緒にスパイシーなことをするにはどうしたらいいかなと考えるんです。

上間：スパイシーね（笑）。

五十嵐： それこそフジロックで上間のライヴが終わった後にMCの方が出てきて「いやぁ、ニュータイプですね！」と言ったんですが、そういう風に受け取られてすごく良かったと思いました。

ー 民謡だけではなくJ-POPの要素も備えていると。

五十嵐：本当はもっと大きなカテゴリーがいいと思っている位です。

上間：新しいジャンルの名前が出来ればいいと思う位、私の中ではどこにも属さないと思うし、裏を返せば全てに属していることにもなる。 進化している民謡、進化している音楽。ロックテイストもJ-POPテイストもすべて取り入れて、良いものをみんなの身体を通して世に出しているから、新しいジャンルの言葉が生まれてもいいですよね。

五十嵐：今でもカテゴリーとしてワールドミュージックという言い方をするか分からないけど、そういう感じに受け取られたらいいな。


ー 今回全12曲収録で、まず「序曲」を意味する “Overture-命(いぬち)、生(ん)まりとてぃ-” から始まり、M5で「間奏」を意味する “Interlude-躍動-”が収録されていますが、「序曲」と「間奏」があることでアルバム全体がひとつの組曲的な要素も持っているのかと考えたのですが。

五十嵐：でも組曲と言うには、全体的にかなり楽曲イメージにばらつきはありますけどね（笑）。ただ、アルバムトータルで聴いた時にどういうイメージが残るのかは気にして曲順は並べました。今は曲順通りに聴く人がどれだけいるか分かりませんが、やはり全体を意識したうえでこの2曲を入れて作ったという感じです。


ー その “Overture-命(いぬち)、生(ん)まりとてぃ-” は洗礼の為の音楽というか、とても神聖なイメージを受けました。

上間：祈りの気持ちをイメージしました。それを “つらね”と言うんですが『唄者』にも“安里屋ユンタ”が始まる前つらねが入っています。本来つらねは琉歌の8886という字数に基づいているんですが、今回はその雰囲気をアレンジしてみようということで、琉歌とは字数が違いますが、祈りや想いを込めてこれから始まる『ニライカナイ』の物語の1曲目をああいうアレンジにしました。

ー “ゆらりゆらら”は穏やかな楽曲で、躍起になっている現代社会への子守唄のようですね。

五十嵐： まさにその通りです。きっかけとしては上間がコンサートですごく拙くウクレレを弾いたことでした。

上間：（ウクレレを弾いているジェスチャーをしながら）拙くね（笑）。

五十嵐：（笑）でもその姿が、僕には子どもを抱いているように見えたんです。それで子守唄とかいいなと思って。この曲はシンガーソングライターとしても活動されている川江美奈子さんに楽曲をお願いしました。彼女は今井美樹さんや中島美嘉さん、郷ひろみさんなどにも楽曲提供されている方なんですが、川江さんもちょうどお子さんを出産された後ということもあり、お願いしました。

上間：川江さんはすごく優しい方なんです。「この曲は好きなように歌ってね。」と言ってくれたので、本当に好きなように歌ったらとても喜んでくれたんです。冒頭に「腕に抱くあなたの髪をするりと撫でながら」という歌詞があるんですが、その部分がすごく気になって。だって赤ちゃんって、産毛位だから頭を撫でて“するり”と感じる程髪の毛の感触あるのかなと。


ー 確かに。

上間：それで「川江さんの赤ちゃんは髪の毛多かったんですか？」と伺ったら実際多かったらしくて。そういう実体験が歌詞にあるからすごく愛情を感じられたし、最初に曲を聴いた時にも川江さんが子どもを抱いているところが想像出来たんです。私にはまだ子どもはいないけど、自分の姪っ子を抱っこした時のことを思い出したり、自分自身が小さかった時に父や母に抱っこされたんだろうなと想像しながら歌いました。すごい優しい歌!

五十嵐：最近子どもを持ったうちの会社の若手宣伝担当達にこの曲はささってるみたいで、インストアとかで聴きながら涙してるよな。

上間：あはは！そうだったんだ。