ー お二人のコンビネーションはバッチリですか？


五十嵐：そうですね。でもだいぶ分かってきたかなという位かな。まだ分からない部分が色々ある気がする（笑）。

上間：自分でも自分のことが分からないこと沢山あるし（笑）。

五十嵐：でもレコーディングとかを見てると、なかなかの大物っぷりを感じるね。

上間：謙虚ですごく良い子だと思うんですけど!

＜一同爆笑＞

五十嵐：でも上間は小さくまとまらないから良いですね。手ぶらで来る部分は手ぶらのまま、すごく考えてくる部分は本当にきちんと考えてくる。それによって曲の質を高める話し合いが沢山できるから。そういう意味ではもしかして自信たっぷりなんじゃないかな。

上間：そうかなぁ。そんなことないと思うけど。

スタッフ：制作に携わったミュージシャンは大物の方も多かったですが、最終的には上間さんの魅力に引き込まれていったので、思った以上の化学反応が沢山ありました。

上間：やはり人と人です。

五十嵐：だからこれからも、彼女の伸びしろを考えるとすごく面白い存在だと思うんです。勿論民謡という中での基本はすごく出来ている人じゃないですか。でもそれをそのままではなく色々な刺激を与えることで、また違う引き出しが出来てくれば更に面白いと思うし。関わるみんなも面白がりますし、楽器が弾けるというのも大きいかもしれません。しかも三線。いわゆる西洋の譜面ではないところで持っているものというのがミュージシャン心をくすぐるというか。「それどうやって拍を取ってるの？」って（笑）。

上間：私はそれが普通だし、逆に五線譜は分からない。だから私の取る拍はおかしいって言われます。いきなり裏になったり。

五十嵐：「どこが頭になるの？」って言われてたね。

上間：「全部頭だよ」って（笑）


ー そういう違いがあるんですね。

五十嵐：違いますね。

上間：でもそれが楽しい。

五十嵐：だからそういうものがある人というのは面白い。元々譜面なんかで作るものではないじゃないですか、音楽って。そこに立脚しているから良い曲も多い。

上間：民謡だとしても、きっちり譜面を作ろうとすると多分「うわぁーー!!!!!」ってなっちゃうと思う（笑）。アレンジャーの澤近さんが「バンドメンバーに教えるために最初は譜面は書いたけど、後は雰囲気で分かってくるよ。」と言ってくれたんです。でもまさしくその通りで、雰囲気やニュアンスでやっていることが、もう伝わっているんだと現場で分かって嬉しかったです。


ー タイトルトラックの“ニライカナイ”は切なさを持ちつつ、サビでは気迫感じました。

上間：この曲は受け継がれてきたものというのをテーマに歌詞を書きましたが、沖縄の人は殆ど、ニライカナイというものを知っているし、みんなそこに理想を求めたり会えなくなってしまった人に会えると思ったり、心のよりどころみたいなところなんです。実際に行けるか分からないけど、人と繋がっていられる命のサイクル。それは先輩達から受け継がれてきた命のリレーなので祈りを込めて書きました。


ー 続く“あなたのもとへ”は演奏が澤近さんのピアノのみで、とても切ないバラードですね。

上間：レコーディングブースには扉1枚あるけれど、お互いのコンディションをみながら呼吸を合わせて澤近さんと一緒にせーので録りました。この曲は男女間の話にも思えるけど、婆ちゃんが亡くなった後に聴くと見方がガラッと変わったんです。歌っていてもそう。本当に大切な人の元へ大きい空で風が流れるけど昔、婆ちゃんと笑い合っていた頃のことを思い出したりしていました。だから聴く人によって捉え方が自由な曲だと自分自身感じました。


ー 歌とピアノだけというシンプルな構成は逆に歌い手としては難しいのでは？

五十嵐：でも彼女の場合は元々三線と歌というスタイルなので、そこはあまり大変ではないんじゃないかな。そんなに考え込まずに歌えてたよね。

上間：考え込んではいなかった。でも同時録音ということもあり、ライヴのような感覚で臨んだのですごく集中はしました。

五十嵐：割とぎゅーっと詰まった音楽よりも、隙間があるところで自分がどう言おうかということは自然と出来る人だと思います。だからこの曲に関しては僕はレコーディング中、何も言わなかったですし言う必要がなかった。歌い回しも独特だし、声の倍音も和楽器みたいな面白い響きを持っている。そこが彼女の個性でしょうね。


ー “あいうた”は家族の死を歌った曲ですね。やはり『ニライカナイ』ということでテーマは外せない、かつラストにという感じでしょうか。

五十嵐：この曲は彼女が以前から歌っていた曲なんですが、すごくハマりが良いのと、シンプルに良い歌なのでCDを全部聴いた後のイメージとして暖かさが残る。最後には一番ふさわしいと思いました。

ー 五十嵐さんはプロデュースという立場で制作に携わっているので、単純にリスナーとしてのみ考えるのは難しいかもしれませんが、あえてリスナーの耳で聴いた時、このアルバムをどう感じますか？

五十嵐：いやぁ、次どうするんだろうなと思いました。

上間：やっぱりもう次の制作のこと？（笑）

五十嵐：いやいやいや、リスナーとしても次の作品でこの上間綾乃というアーティストはどこにいくのかなって思うんじゃないかな。

上間：あー。『唄者』を聴いてくれている人もこの『ニライカナイ』で「こう来たか！」ってびっくりしてもらえるかもしれないですね。

五十嵐：だって僕だって上間がどっちにいくか全然分からないもん！どっちにも転べるというか。…いやいや、転んじゃ駄目だけど。

＜一同爆笑＞

上間：『唄者』の時も2012年、私がもっている上間綾乃の全てを出したし、1年経ってやはり今の上間綾乃を全部出す。これからどういう音楽を出していきたいかとか、こういう可能性があるんじゃないかとか。そうやって進化していけると思います。だからこの『ニライカナイ』も自由に聴いて欲しいです。

五十嵐：やはり歌ですから色々な言葉の端々にどうイメージが沸くかというのはすごく大切だと思うんです。だからストーリーとして感動したり言葉として良いものがあるとしたって、音と共になければ駄目。言葉だけで良いなら朗読でいいわけだし、その中で耳に引っかかった言葉やグッと来ること、オッと驚くことが沢山入ったアルバムだと思います。

上間：そこで何を感じてくれたかをみなさんに聞くのがまた楽しみです！


ー ありがとうございました。


取材：秋山昌未


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