ボブ・ディランは2012年「ネヴァー・エンディング・ツアー」の最終レグを、マーク・ノップラーをオープニング・アクトに迎えて10月5日より11月21日まで33公演行った。今回はツアーを締めくくるボストン、フィラデルフィア、ワシントンD.C.、ブルックリンの4公演を見られたので、思いつくままにライヴ・レポートを書いてみた。
2012年のディランは4〜5月に中南米ツアー、7月にフェスティヴァルを中心とするヨーロッパ・ツアー、8〜9月にカナダ・北米ツアー、10〜11月にマーク・ノップラーと組んだカナダ・全米ツアーと4回のレグに分けて全86公演をおこなった。25年目に入った「ネヴァー・エンディング・ツアー」の中ではやや少ない公演数だが、71歳を超えたディランは相変わらず精力的にライヴを続けている。これは凄いことだし、ファンとしてはただただ感謝するだけだ。
インターネットを中心とする情報社会になったおかげで、誰もが、どこにいてもディランのコンサートの模様を細部にわたって簡単に入手できるようになった。コンサート終了の数時間後にネット上に映像や音源がアップされたとしても、もはや驚くべきことではなくなった。これは、はたして良いことなのだろうか。実際にコンサートを観に行く前からかなりのことが予想でき遠い昔のようなドキドキ感は薄れてしまったものの、実際に現場で体感する興奮は格別だ。
昨年10〜11月にも、ディランはノップラーと組んでヨーロッパ・ツアーを行ったので、今回もその再現になるだろうと予想していた。また、今年は9月にニューヨーク北に再オープンしたキャピトル・シアターの歴史的コンサートを含め、3公演を見たばかりだったので、今回も観に行くべきかどうか、やや迷ったが、ディランもノップラーのニュー・アルバムを発表した直後なので、新曲をライヴで聴きたいという想いで観にきたというわけだ。
10月5日、ツアー初日の詳細が伝わった。ニュー・アルバムから「スカーレット・タウン」を歌ったそうだ。ぼくがニュー・アルバムの中で最も気に入っている曲のひとつだ。期待が一気に高まる。しかし、2日目以降はセットリストに新曲が含まれなくなった。どういうことだ。ニュー・アルバムを発表した直後のツアーで、新曲を歌わないアーティストなんていない。むしろニュー・アルバムのプロモーションのためにツアーを行うのが当たり前だ。勿論ノップラーのセットリストを見ると、新曲で埋まっている。つくづくディランは不思議な人だ。嬉しいことに、ツアー後半になるとようやく新曲である「アーリー・ローマン・キングズ」がセットリストに組み込まれるようになった。一安心。
ぼくが見た4回のコンサートでも、ディランは毎回「アーリー・ローマン・キングズ」を歌った。さらに嬉しいことに、最後の2公演では「スーン・アフター・ミッドナイト」がライヴ初登場を果たした。13日にデトロイトで「ペイ・イン・ブラッド」を歌ったので、今回のツアーでライヴ初披露された曲は、結局4曲となった。もっともっと新曲を聴きたかったが、来年に期待するしかない。
9月に観たコンサートと大きく変わったのは、ディランがギターを弾かなくなったことと、ステージセットががらりと変わったことだ。ツアーが始まったときは、何曲かでフェンダーのストラトを弾いていたが、10月12日以降はまったくギターを持たなくなった。一部ファンの間では、関節炎に苦しんでいるのではとの憶測がささやかれているが、真相は闇の中だ。オープニング曲では立ってキーボードを弾くが、その後はほとんどベイビー・グランド・ピアノの前に座ったままだ。途中3曲だけステージ中央に立ってハーモニカを持ちながら歌う。ギターを弾かなくなったのは寂しいことだが、そのぶん身軽になったのかステージ中央で歌うときの動きが派手になった。とりわけ「シングス・ハヴ・チェンジド」では、両足を大きく広げ中腰になったボブが横揺れダンスをしたり、大きく手を広げたり、膝を深く曲げたり、リズムに合わせて前後に動き回ったりと、ボブにしては精一杯のダンスを披露してくれる。ぼくはそんなボブを見ながら、なぜかドリフターズの加藤茶を思い出した。デビュー当時のボブが、チャップリンのようだと称されたのもわかる気がする。
ステージセットは、巨大なアリーナには不釣り合いなほど簡素な構成に変わった。ステージの上に写真撮影で使用するような、背の高い電気スタンドのようなライトが8本設置されている。この明かりが主な照明だ。したがってステージ全体も薄暗いままで、明るくなることは一度もない。もちろん、ピンスポットなどは使われない。ステージの前の方には、鏡が観客席に向かって置かれている。9月のライヴのときは大小様々な形をした5、6枚の鏡が置かれていたが、今回は比較的小さな鏡が2枚置かれていただけだ。ファンの間では、風水上の理由で置かれているとか、写真に撮られるのを防ぐためとか、いくつか理由があがっている。かつてナグチャンパの香を焚いていたが、この数年は焚かなくなったのと関係しているのかもしれない。もちろん真相は誰にもわからない。また、ステージを取り囲む黒い緞帳のような布に、さまざまなパターンが投影されるが、4日間とも違う演出であった。ライティング・スタッフの苦労が伺える。
ステージに登場する方法も変わった。アラン・サントスの紹介アナウンスは9月のときからすでに無くなっていて、会場の明かりが落とされると暗闇の中にバンドメンバーがぞろぞろ姿を現し、最後にボブが登場してオープニング曲がスタートする方法だった。今回は違う。会場の明かりが消えると同時に、まず、暗闇の中にステージ左手からスチュ・キンボールがギターを弾きながら登場する。スチュのギター・リフが続く中、ほかのメンバーもステージに上がり、最後にボブが登場し、そのままオープニング曲が始まる趣向に変わった。観客の意識をステージに向けさせるという点では、この方が効果的だ。
今回のツアーでは、オープニング曲として「ウォッチング・ザ・リヴァー・フロー」、「ユー・エイント・ゴーイン・ノウウェアー」、「アイル・ビー・ユア・ベイビー・トゥナイト」の3曲が用意されていた。ただし、11月9日のシカゴ公演は、「スウィート・ホーム・シカゴ」と思われるインストゥルメンタル曲をボブもギターで参加して演奏した。だいたいツアーのオープニング曲を何曲も用意すること自体珍しいのだが、ディランはその日その場所の気分に合わせて、コンサート直前にその日のセットリストを決定すると伝えられている。オープニング曲がそのことを証明している。
2曲目もほとんどの場合60年代の作品の中から日替わりで選ばれる。ぼくが見た4日間は、「ドント・シンク・トワイス・イッツ・オールライト」(18日ボストン、21日ブルックリン)、「イッツ・オール・オーヴァー・ナウ・ベイビー・ブルー」(19日フィラデルフィア)、「トゥ・ラモーナ」(20日ワシントンD.C.)を歌った。他の場所では、「イット・エイント・ミー・ベイブ」、「ガール・オブ・ザ・ノース・カントリー」、「マン・イン・ザ・ロング・ブラック・コート」、「ラヴ・マイナス・ゼロ」なども歌われた。
3曲目と4曲目は、ボブがステージ中央に出てきて歌う「シングス・ハヴ・チェンジド」、「タングルド・アップ・イン・ブルー」に固定されている。ツアー後半では、マーク・ノップラーが2〜4曲目までギターで加わるようになった。ただし、ノップラーはオープニングのセットでは白っぽいシャツを着て当然のように目立っていたが、ディランのセットでは他のメンバーと同じように黒いシャツに着替えていたので、気づかなかった観客がいたかもしれない。もっとも、19日のフィラデルフィアでは、4曲目が終わると珍しくボブが「サンキュー・マーク。マーク・ノップラー・オン・ギター」と紹介の言葉を発した。この1回をのぞくと、ノップラーは一度も紹介されずにステージに登場し、去っていったというわけだ。
5曲目から8曲目までは、ほぼ日替わりで様々な曲が歌われた。ただし、ぼくの見た4公演では「アーリー・ローマン・キングズ」が5曲目に固定されたていた。したがって今回は「トライイング・トゥ・ゲット・トゥ・ヘヴン」、「サマー・デイズ」、「ヴィジョンズ・オブ・ジョハンナ」、「チャイムズ・オブ・フリーダム」、「ローリン・アンド・タンブリン」、「デソレーション・ロウ」、「ア・ハード・レインズ・ゴンア・フォール」、「ザ・レヴィーズ・ゴナ・ブレーク」を聴くことができた。
他の場所では「トゥイードル・ディー・トゥイードル・ダム」、「バラッド・オブ・ホリス・ブラウン」、「ハイ・ウォーター」、「ジョン・ブラウン」、「オネスト・ウィズ・ミー」、「クライ・ア・ホワイル」、「ビヨンド・ヒア・ライズ・ナッシング」、「ミリオン・マイルズ」、「ブラインド・ウィリー・マクテル」、「ディス・ドリーム・オブ・ユー」、「ザ・ロンサム・デス・オブ・ハッティ・キャロル」、「ディグニティ」、「ミシシッピ」、「ジョーイ」、「メイク・ユー・フィール・マイ・ラヴ」、「スピリット・オン・ザ・ウォーター」、「エヴリー・グレイン・オブ・サンド」、「ネッティ・ムーア」、「シェルター・フロム・ザ・ストーム」、「デリア」、「ラヴ・シック」、「ペイ・イン・ブラッド」などが歌われた。
9曲目は「ハイウェイ61リヴィジテッド」に固定されている。この曲はいよいよコンサートが終盤に向かう合図でもある。
10曲目は日替わりスポット。ぼくは「フォゲットフル・ハート」、「ミシシッピ」、「スーン・アフター・ミッドナイト」(2回)を楽しんだ。他の場所では「スカーレット・タウン」、「シンプル・トゥイスト・オブ・フェイト」、「エイント・トーキン」、「シャドウ」(ゴードン・ライトフットの作品)、「ウェン・ザ・ディール・ゴー・ダウン」、「シュガー・ボーイ」などが歌われた。
これら数多い日替わり曲のなかで「ブラインド・ウィリー・マクテル」、「エイント・トーキン」はなんとしても聴きたい曲だったが、残念ながら今回は叶わなかった。来年に期待しよう。
11曲目からアンコールの15曲目までは、「サンダー・オン・ザ・マウンテン」、「バラッド・オブ・ア・シン・マン」、「ライク・ア・ローリング・ストーン」(メンバー紹介。ボブが歌以外で声を出すのはこのときだけ)、「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」(メンバー全員がボブを中心に横一列の並び、観客に向かってドヤ顔ポーズを決めた後、アンコール・ブレイク)。再登場して歌うアンコール曲「ブローイン・イン・ザ・ウィンド」の5曲に完全に固定されている。最後は、再び横一列のポーズで締めくくる。
ただし21日、ツアー最終日のブルックリン公演では「サンダー・オン・ザ・マウンテン」が終わり、誰もが「バラッド・オブ・ア・シン・マン」に移るだろうと思っていたのに、ボブは突然ここで「フォーゲットフル・ハート」を追加して歌った。15曲のセットリストで行われた今回のツアーで、唯一16曲を歌ったというわけだ。今年のツアーを締めくくる意味を込めて、ボブからファンに向けた素敵なプレゼントだったと信じている。
こうしてディランの4日間は終わった。ツアーのハイライトは新曲2曲であることは当然だが、これ意外に特に印象的だったのは「フォーゲットフル・ハート」、「チャイムズ・オブ・フリーダム」、「ヴィジョン・オブ・ジョハンナ」、さらに毎日歌った中では「バラッド・オブ・ア・シン・マン」のパフォーマンスに改めて感激させられた。9月のライヴでは、バックカーテンにボブのシルエットが映し出され、幻想的な不気味さが強調されていたのに対し、今回はステージの黒いバックカーテンに光の滝のような映像が映し出され、ボブのヴォーカルにディレイ・エコーがかけられ、まるでヘヴィメタ・ミュージックとサイケデリック・ミュージックが融合したような恍惚感を味合わせてくれた。
ボブはブルックリンの最終公演を終えると、そのまま空港に向かいマリブに戻っていった。サンクスギヴィングは自宅で過ごすことになるのだろう。
ところで、アメリカのファン・サイトでは、来年の「ネヴァー・エンディング・ツアー」は2〜3月のジャパン・ツアーから始まる、とまるで決定しているかのような情報が掲載されている。実際のところは、まだ何も正式な発表はされていない。はたして実現するのだろうか。気をもませるばかりだ。ただ、来年も「ネヴァー・エンディング・ツアー」を続行させることだけは、確実と思われる。71歳とはいえ、まだまだ若いし元気だ。ぼくが好きなもう一人の高齢アーティスト、レナード・コーエンは78歳だが、この4年間精力的に世界を回っている。コーエンは80歳になったら大好きだった喫煙を再開すると決めているという。その日を楽しみに、それまでツアーを続けるとも語っている。それまでにレナード・コーエンの日本公演も実現することを願っている。
菅野ヘッケル:ブルックリンにて
■ オフィシャルサイト
http://legacyrecordings.jp/?p=2589
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